「リバースモーゲージ」、この言葉、既にどこかで聞かれたことがある方も多いかもしれません。イメージとしては、なんとなく住宅ローンを裏返したような印象でしょうか。その仕組みを簡単に言えば、「自宅を担保にお金を借りて、生存中は利息のみ返済し、亡くなったときに自宅を売却して残った負債の返済に充てる」というものです。この仕組み、日本ではなかなか利用者が拡がらないのが現状のようで、最大手の東京スター銀行の2019年時点での累積融資額が1200億円(日本の住宅ローンの融資残高は全体で200兆円)とのこと。普及しない理由としては「最終的に自宅を売却して返済に充てなければならない」というイメージが強いことが、利用者を遠ざけている一因としてあるのかもしれません。しかし元々この仕組みはアメリカで生まれた「住宅資産の流動化による資金調達手段」の一種で、アメリカでは既に95万件24兆円の融資実績があり(2017年現在)、老齢期における主要な資金調達手段の一つとして市民権を得ています。(ちなみにアメリカにおける2017年における住宅ローン貸出残高は約950兆円です)。
このリバースモーゲージですが、日本では、①担保割れリスク②長生きリスク③金利上昇リスク、の3つのリスクがこの仕組みの普及を阻んでいると云われています。③金利上昇リスクについては当面はあまり心配はいらないかもしれませんが(勿論、リバースモーゲージの利息が高めであるというデメリットはあります)、①や②、特に①担保割れリスクに関しては、日本の住宅特有の、「中古住宅における急激な価値の減損」の問題があり、その結果、担保価値が実勢以上に低く見積もられてしまうことが普及の大きな壁となっています。本来ならば住宅の価値は1棟1棟すべて違うはずなのですが、日本においては既存住宅の公的な価値評価の基準が無い為、便宜上、税法上の減価償却基準を中古住宅の価値評価に流用しています。つまりこの減価償却基準を当てはめた結果、例えば日本の木造住宅は22年でその価値がゼロと見なされます。(本来は22年で減価償却しなさい、という基準であって、建物としての実際の価値が22年でゼロになるわけではないのですが)。
一方アメリカのリバースモーゲージが広く普及しているのは
・担保となる住宅が万一担保割れしても不足分は連邦政府による保証が付いていること。(連邦住宅都市開発省HUDの住宅資産転 換融資制度HECM)
・担保となる住宅そのものがアメリカでは中古になっても価値が下がらず、むしろ年率2%前後、常に価格が上昇しており、担保 割れリスクが小さい事。
・中古住宅の流通が全住宅流通の8割前後(新築は2割)を占め、一般家庭も頻繁に住み替を行っていること(一生涯に5~8回住み替 え)。その結果中古住宅の需要が安定してその価値が下がらないこと。
等の背景に支えられている面が大きいようです。
それに引き換え今一つ普及しない日本のリバースモーゲージですが、しかしよくよくその仕組みに目を通してみると、思った以上に使えるのではないか、という気がしないでもありません。
その理由は
・担保の掛け値が、リバースモーゲージを扱うほとんどの金融機関において、実際の担保の評価額の50%前後であること。
⇒半分の評価しかしてもらえないことは逆に云えば、担保割れと見なされた時点でもまだ残りの50%は価値を残している
こと。したがって、ある意味、借り過ぎのリスクを避けられること。
・元金の返済は、自宅の売却に限定されないこと。元金の返済期限は、必ずしも本人の死亡までとする必要がなく、
自由に決められること。
⇒その本質は、「返済期限のない、未払いの不動産担保ローン」であること。
・借入金の使途が比較的自由で、幅が広いこと。
筆者が調べた限り、以下のような用途でのリバースモーゲージの活用例がみつかりました。
・リフォーム資金
・建て替え資金
・施設入居資金
・ローンの借り換えによる生活改善資金
・カードローン等借入金の返済資金
・納税資金
・事業資金(開業・手仕舞)
・持ち分買取・底地買取資金
・生活資金
・ゆとり資金
この「リバースモーゲージ」、現状では改善の余地は多々ありますが、思った以上に使えるのではないか、という印象を持ったのも事実です。皆様いかがでしょうか。