現在の住宅ローンの枠組は、戦後高度成長期を通じての、年功序列・終身雇用という、右肩上がりの賃金体系をベースに組み立てられてきました。そこでは、家計に最も負担のかかる時期(多くは子供の養育費がかさむ40~50歳代の時期)に、年功賃金により収入も正比例して増加し、ローン返済の中にあっても収支のバランスを取ることができました。
一方、ジョブ型雇用に代表されるような新しい働き方を前提とした生活設計においては、右肩上がりの賃金はもはや期待できませんので、特に家計負担が最大となる時期(子供の養育費がかさむ時期)の支出に見合った、収入の確保が課題となります。突然の収入減少や収入途絶にも備えなければなりません。ボーナスや退職金などもおそらく期待できないでしょう。
また支出を削減しようと思っても、贅沢費は削れても教育費を含む子供の養育費はなかなか削れないものです。就学期の子供がいる期間の支出の削減は容易ではありません。
そのような中で、従来と同じ感覚で将来の収入見通しが甘いままに、長期に渡る住宅ロ―ンを組むことは家計にとって大きなリスク要因となります。
ではどうしたらよいのか。以下に筆者なりの対策をまとめてみました。
1)キャリアプランを真剣に考える。
ジョブ型雇用に代表されるような賃金体系のもとでは、将来の収入は、今後のキャリアプランをどう描くかにかかってきます。収入アップのためにはキャリアアップが必須ですので、その意味でも、これからは一人一人が自らの“キャリアプラン”を真剣に考えなければならない時代になってきたといえます。
2)キャリアプランをベースに、マイホームの取得の是非を考える。
・目先の都合だけで安易に決めず、キャリアプランに沿った長期的視野から判断する。
・賃貸ではだめなのか、中古住宅ではだめなのか、郊外や地方での生活はキャリア形成と両立できるのか、等
3)キャリアプランをベースに住宅ローンの組み方を考える。
・将来のことはわからないという前提に立ってリスクを先送りにしない。(返済期間はなるべく短く、頭金はなるべく多く、繰り上げ返済に励む、など)
・元利均等返済にこだわらず、元金均等返済のメリットも見なおす。(少しでも早く負債の元金を減らすことを考える)
4)リスクヘッジとしての保険の再考
・今後は突然の収入減少や途絶に対する備えが重要になります。収入保障保険や所得補償保険の検討が有効です。
5)相談相手の確保
・キャリアプランや家計の将来計画の策定にあたっては、自分だけでは限界があります。
プロの目、プロの持つ情報を反映させた、より緻密な計画の策定が必要です。
・そのためには、キャリアコンサルタントやファイナンシャルプランナーといったプロの助言が有効です。
金融機関の選択においても、単に金利が安いといった要素だけではなく、
どこまで親身になって相談に応じてくれるかといった視点からの検討も重要です。
以上となりますが、最後に2点、最近お客様とお話しした中で気になったことをまとめておきます。
1)住宅ローンの金利が低下したからといって、単純にローンが借りやすくなったと考えるのは早計です。借り安いかどうかは、ローン返済の原資となる収入の伸びの方がはるかに影響大と云えます。
2)今まで払っていた家賃で住宅ローンが組めるので、マイホームを購入する方が得、と考えるのも早計です。
戸建住宅であれば、固定資産税や将来の修繕費、マンションであれば管理費や修繕積立金、等々、マイホームの必要コストは多々あり、どちらが得かは、一概には言えません。
国の住宅政策においても、新築後は建物の資産価値が大きく減損してしまう今の日本においては、返済途中で自宅を売却するとローンの負債だけが後に残りかねません。景気対策の為だけの新築住宅偏重の政策から、既存住宅の価値を高め、住宅資産価値の目減りを防ぐ政策への転換が強く望まれます。