コロナ禍のおかげでテレワークなどの在宅勤務が増大したこと、また、ワクチン接種が進み、日常生活の正常化と景気回復が視野に入ってきたことで、年初以来、米国を中心に戸建て住宅の需要が急増しています。そのため米国では住宅用資材の需要がひっ迫し、その影響から2×4用の合板や柱などに使う集成材の日本での輸入価格も急騰し、また品薄状態となっています。困ったことにはそのあおりを受けて、日本産の木材も値上がりしており、戸建て住宅用の杉の柱材が3割も値上がりしたと、地場の工務店さんが悲鳴を上げています。
実際のところ、この値上がりと品不足によって、せっかく請負契約が終わり、古家の解体も済んだのに、工事が着工できないまま止まっている、という現場も散見されます。そんな話を聴くと、ここでもコロナパンデミックによって、日本という国の様々な目詰まりが、いやが上にも浮き彫りにされてしまったと感じざるを得ません。それはどういうことでしょうか。
日本は国土の約2/3、2500万ヘクタールが森林です。資源の少ない日本において、豊富で恵まれている数少ない天然資源が森林なのですが、戦後の高度成長期、人口の都市への集中によって、大都市圏では一大住宅建築ブームが起こり、住宅用木材の需要が高まりました。しかし大半は安価な輸入材に頼り、国は国内の林業を継続的に発展させる政策を怠ってきました。その政策は現在でも大きくは変わっていません。
それは東京都においても同じです。東京都は実は全面積の約4割、8万ヘクタールが森林であり、しかもその7割が奥多摩地域にあります。奥多摩の森は戦時期の乱伐ののち、地道な植林の努力によってその6割が人工林に置き換わっており、それらがいま丁度材木用に適した樹齢50・60年を迎えていますが、後継者不足、流通網の未整備、需要の喚起不足などによって、伐採されないままに放置されています。
適切な時期での伐採が進まず、森が放置されることによる森林の荒廃は、単に林業の衰退だけに留まらず、森林が本来持つ保水力やCo2吸収率の低下、花粉の大規模飛翔による健康被害の増加、がけ崩れや鉄砲水の発生、沿岸漁業の水産資源の低下、に至るまで、その影響は広範に及びます。このままでは、近年のSDGsや温暖化ガス削減等の世界的取り組みにも与することができません。また最近話題のCLT板を使った木造中高層建築等の技術革新も、国産材の需要拡大にどの程度つながるのかは未知数です。短絡的なコスト重視に走ってしまえば、輸入材の増加を招くだけです。
実はこの問題を日本の社会に喚起する絶好の機会が東京都にはありました。それはオリンピックです。有名な隈研吾氏設計による新国立競技場が木を大量に使う斬新なデザインで話題になったこともあり、都はオリンピックを自然調和的な国産の木材資源をPRする機会ととらえて話題作りに力を入れた時期もありましたが、ふたを開けてみれば、例えば関連施設建設に使われた国産材の内、東京産(多摩産材)は10%にも満たないものでした。そこには勿論、森林認証の問題、品質、川上から川下に至る流通網の未整備、等、現実問題としての様々な壁があったのは事実でしょう。しかし最終的に都は、都民や国民の目を東京の森に向けさせる絶好の機会を失ったのだと思います。
オリンピックに間に合わないとしても、東京の林業の再生を加速させる契機ととらえれば取るべき施策は多々あると思うのですが、展望は開けていません。その目詰まり感は東京に限らず国全体にも広がっており、今回の国産材の品不足と価格の高騰にも影を落としているのではないかと思います。