先週末、筆者は都内某所の住宅展示場で終日よろず相談員を務めていた。

天気が悪かったわけでもないのだが、週末だというのに来場者が殆どいない会場は終日閑散としており、会場内に陣取ったイベントコーナーのスタッフも一様に時間を持て余していた。

この住宅展示場だが、首都圏だけでもその数100か所は下るまい。通常、住宅の購入、特にオリジナルのマイホームを希望する層ならば、家を建てたいと思った時、まずはさておき最寄りの住宅展示場に足を運ぶことを考える。一般の消費者にとって、建築業者との接点を持つには、特にマスコミで名の知れたハウスメーカーと接点を持つには展示場に行く以外の選択肢はほぼ有り得ないからだ。

いや、今まではそう思われていた。注意したいのは『今までは』と過去形で云う必要がここにきて生じてきているということだ。

実際にこれらの展示場のすべてがコロナの感染拡大中、完全に人の来訪が途絶えた。その一方でコロナ渦中でのテレワークという新しい働き方が、テレワークに適したマイホーム環境を求めて、一時期、時ならぬ戸建て住宅ブームが起きた。牽引したのは所謂パワービルダーと呼ばれる大手建売業者だ。

ほどほどの価格ですぐに土地を含めた一軒家が手に入る手軽さは、コロナ渦中にあっては、中身の良し悪しは別として、住宅の1次取得者向けの第一選択枝として活況を呈したのも頷ける。実物がその場で直に確認できるというメリットも大きい。実際に昨年度の各社の営業利益は史上最高を更新した業者も多い。

しかし、この時ならぬミニバブルも、秋口以降市場はもたつき始めている。コロナ期間中は住宅展示場への客足が遠のいていたのは云うまでもないが、今年の夏以降、感染が下火になり、夏休み明けの掻き入れ時を過ぎても客足ははっきり言って戻っていない。

その理由の一つに住宅価格の高騰がある。新型コロナの感染拡大による物流の途絶、テレワークの必要性からの米国の住宅ブームに伴う建築資材不足(ゆわゆるウッドショック)、ロシアのウクライナ侵攻による更なる資材高騰、これらがここ数年のうちに立て続けに起き、風下での住宅価格が一気に高騰した(米国のウッドショックは収まったが日本の住宅価格の高騰は、特に注文住宅のそれは簡単には収まらないだろう)。

状況はマンションも同じだ。マンションは新築も中古も価格が高止まりし、東京都の年収倍率は2000年の7.3倍に対し、直近は13倍を超えている。これでは収入が増えないばかりか減少している中間層にとって、マイホームは最早高根の花だろう。

しかしそれだけでは、住宅展示場から消費者の足が遠のいている決定的な説明とはならない。もう一つ大きな変化があるのだ。それは各メーカーともコロナの感染期間を通じてWEBでの営業という新しい手法が浸透し、必ずしも展示場に客が来なくても営業できるノウハウを蓄えたことだ。

その意味ではコロナ感染期間を通じて最も割を食ったのはWEB対応に後れを取った地場の工務店かもしれない。この話は次の機会に回すとして、しかし住宅展示場には更にもっと本質的な問題もある。

はたして、展示場に建っている、豪華な内装や調度品で飾られた装飾過多の一棟7〜8千万円もするモデルハウスを見たところで実際にどれほど参考になるのか、という問題だ。リアルサイズのモデルハウスを謳う業者はあるが,延床50坪のリアルハウスが果たしてリアルサイズなのかどうかー.近年は大手が撤退した後の展示場に所謂パワービルダーの進出も目立っているが,街なかに建つ実際の家とのギャップは大手以上だ.筆者のもとに住宅の相談に来る人達には、事あるごとに、どうせ見学するなら実際に現場に建っている建物を現地見学会や内覧会を利用して見学するほうが良いと伝えている。

このような住宅展示場の現状を見越しての事かどうか、大手の一部には住宅展示場への出店を減らすと明言しているハウスメーカーも出始めている。彼らの主戦場は既に国内ではなく、米国やオーストラリア・東南アジアなどの海外市場なのだ。

ましてや時代は既にVRやメタバースの世界である。ある意味、物品の展示空間は仮想空間への移行が最も容易い空間だ。住宅展示場的ビジネスモデルは総合的に見て、そろそろ転換点に来ているように思えてならない。


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