マイホームを建てようと思ったとき、建売が良いのか注文住宅にするのか、また、業者はハウスメーカーか工務店か、構造は鉄骨か在来木造か、等など、いろいろ思い悩まれることは多いと思います。場合によっては中古住宅、という選択も有るかもしれません。
更には、持ち家か賃貸か、という古くて新しいテーマも加わってくるかも知れませんが、今回はスペースの関係から、中古住宅や持ち家か賃貸かの選択については後日に譲ることにして、新築の場合の選択についてお話します。
さてこのマイホームの選び方ですが、意外と車を選ぶ時のそれと共通項が多いようです。ちなみに皆さんは車を選ぶとき、どんな基準で選んでいますか?価格・維持コスト、大きさ・広さ、安全性、燃費の良さ(省エネ性)、耐久性、静謐性、運転のしやすさ(操作性)、デザイン・色、ブランド力、遊び心、等など、これら車を選ぶ際の様々な選択基準は、マイホームの選択の際にも実はほとんどすべてが当てはまるように思われます。
まずは価格です。選択の際、予算が第一なのは車も住宅も同じですが、皆さんは予算が決まればクラウンとカローラを比較するようなことはないと思うのですが、住宅においてはこの事がよくわからない方が意外と多いように見受けられます。勿論両者を比較すれば、その差は歴然としていますが、カローラが必ずしも悪いというわけではないですよね。車の最低限の機能、つまり移動手段という機能だけ見ればカローラでも十分なのかも知れません。住宅についても同じことが云えますが、問題は、みなさんが比較しようとしている住宅がクラウンレベルなのかカローラレベルなのかを判断することが、素人目には意外と難しいということです。同じハウスメーカーと呼ばれる範疇でも、そのメーカーごとの標準価格帯には差があります。それを無視した比較はあまり意味がありません。同じことは地場の工務店レベルの比較においても云えます。更にはメーカーと工務店とを比較した場合、おなじランク同士であれば、その価格には本来最低でも1~2割の差があります。(多額の宣伝費・人件費が加わる分、メーカーがコスト高になるのは当然です)。従って、元々ベースが違う業者の価格の差を値引きで解決しようと思うことも決して賢い方法とは云えないのです。更には車を所有したあとの維持費(車検代や整備費、部品の交換代、など)が無視できないように、住宅においてもその後にかかる維持費・メンテンナンス費用は無視できません。購入時にかかる費用だけでなく、住宅購入の際にはその後何十年間かの維持費についても、きちんと家計計画に組み入れておく必要があります。
次に「大きさ・広さ」ですが、皆さんは車を選ぶ時、その車に乗るのが誰なのかを考えますね。もっぱら2人だけなのか、或いは3世代含めた大家族であれば、場合によっては大型バンという選択も或るかも知れません。住宅も同じですが、車との違いは、10年20年という長期的なスパンで家族構成と必要な広さ(間取り)を考えなければいけない、ということです。日本の場合は、家族構成に応じて住み替える、という発想が主流でありませんので、将来における間取りの可変性なども選択の要素となるかも知れません。
次に「安全性」について。最近の度重なる痛ましい事故を思うにつけ、急発進防止装置などの安全装置に対する関心が高まっていますが、住宅においてこの「安全性」に当たるのは「耐震性能」でしょう。幸いなことに地震国日本においては、この「耐震性能」に関してはハウスメーカー、工務店を問わず力を入れており、多くの住宅において「耐震等級3レベル」が一般化しつつあります。誤解されやすいのは、鉄骨造と木造では鉄骨造のほうが耐震性能が高い、のではなく、同じ「耐震等級3レベル」であれば鉄骨造であっても木造であっても耐震性に差はない、ということです。勿論熊本地震のときのように、活断層の上や軟弱地盤の上に建っていたのでは、いくら「耐震等級3」の住宅であっても意味はないのですが。
続いて車の燃費、省エネ性にあたるのが、住宅では断熱性能、省エネ性能となります。近年、国はCO2削減のため、一般住宅からのCO2排出の削減に力を入れており、ZEH(Net Zero Energy House)とよばれる省エネ性能の高い(むしろ創エネを目指した)住宅も少しずつですが認知度は広がっているようです。ただ、高性能である分コスト高であり、昨今の一般住宅における断熱性能・省エネ性能の向上を考えれば、個人的には、コストアップに見合うだけのプラスアルファの快適性を得られるのかどうかは、検討を要するように思います。断熱性能が高まれば省エネ性能や気密性・静謐性も当然に高まりますが、断熱材がいくらたくさん入っていても、施工の精度(断熱材を壁や天井に丁寧に隙間なく入れてあるかどうか)がいい加減では意味がありません。ZEHにおける創エネに関しては、太陽光発電による電気の固定価格による買取制度がなくなりましたので、売電を前提としている場合は、エネルギー代の収支の再計算が今後必要かも知れません。
最後にデザインですが、こと車に関しては、最早デザインは好みの問題に過ぎなくなっているように思えますが、住宅に関しては、総合的にはハウスメーカーのほうが、工務店に比べてなお一日の長があるように感じます。そこにはハウスメーカーの家づくりが本質的には純然たる注文住宅ではなく、多くのパターンの組み合わせによる規格住宅である、ということが関係しているように思われます。メーカーのデザインには数多くのパターンがあるのに比べ、工務店のそれはどうしてもワンパターンになりがちです。
最後にひとつだけ、クルマ選びと住宅選びで決定的に大きく異なる点が一つあります。それは、クルマは意に沿わなければ取り替えられますが、住宅はそうは簡単に取り替えられない、ということです。またクルマは、デイーラーに行けば欲しい車そのものを見て触って試乗することができますが、住宅展示場にあるモデルハウスは、デコレーション過多の現実の街なかにはとても建ちそうもないシンデレラ御殿に過ぎず、家づくりの参考にはほとんどならない、という点です。