「不動産引き取りサービス」には要注意
先日の日経新聞朝刊に、「価値が低い空き家や山林の所有権を、格安な引き取り料で買い取る【不動産引き取りサービス】なるものが最近増えているが、業者の3割が非宅建業者で、しかもこの取引形態がそもそも宅建業法上の取引にあたらないため、トラブルが懸念される」とありました。
なかには引き取り料が数百万円というケースもあるようですが、このようなビジネスに参入する業者が増えてきた背景には、買い手がつかない「負動産」を、手間をかけずに早く処分したいという需要の増大があるようです。言葉は悪いですが、古くなりすぎて買い手のつかなくなった商品(不動産)を、粗大ごみとして有料で引き取ってもらう、そんな感覚でしょうか?
しかしここで問題となるのが、「引き取りサービス」の引き取り価格や契約条件です。
ビジネスである以上、業者としては採算の合う引き取り価格の設定が前提条件ですが、引き取った不動産に何らかの付加価値をつけることができなければ(転売、他目的での再利用等)そもそも業者は物件を引き取らないでしょう。引き取ったまま放置しておくわけにはいかないはずです。またそのためのコストがかかればかかるほど、業者としては引き取り料は高く設定したいところです。
一方、顧客の立場としては、売れる物件であればどんなに安くても売却したいところです。固定資産税をはじめとする維持管理費用がかさむ割には物件の価値がほとんどなく、買い手がつかない場合において、はじめて「売れなくてもよい。お金を払ってでも早く引き取ってほしい。」ということになります。
勿論、引き取り料は安いに越したことはないはずです。
問題は「不動産引き取りサービス」の引き取り価格は不動産そのものの価値ではなく、業者と不動産所有者との相対の思惑で決まるということです。
しかも基本的に、当事者間の思惑は真逆の立場にあります。
とはいっても「負動産」の所有者は一般に素人であり、所有不動産の正当な評価ができません。そのような状況においては、足元を見られて本来それ相応の価値がある不動産であるにもかかわらず実際より低い査定をされたり、法外な引き取り料を請求されたりする事態も想定されます。
通常の不動産取引であれば、周辺の相場を睨んでの需要と供給のバランスで売買価格は決まりますので、最終的にその時の相場という妥当な価格に落ち着きます。しかも正規の宅建業の資格のある不動産仲介業者が中に入っていれば、法律にのっとって、問題の起きないように売り手と買い手の間を繋ぎますので、価格の透明性はそれなりに担保されるはずです。
また契約諸条件にも注意が必要です、「引き取りサービス」が相対取引である以上、法律の裏付けがありませんので、後々にトラブルになる可能性があります。
例えば売り手が負う契約不適合責任など、本来は素人である買い手を保護するための仕組みですが、「引き取りサービス」においては、売り手である依頼主側が素人のために、知らない間に責任リスクを背負わされてしまわないとも限りません。
そもそも「不動産引き取りサービス」が対象とする不動産は、一般的に言って様々な理由で買い手のつかない物件です。そのような物件を引き取る以上は、その業者独自の物件再価値化のノウハウがあり、その手間に対する正当な対価として引き取り料も設定されるはずですが、現実的には取引自体が宅建業法によって保護されず、契約内容や諸条件も相対で決められてしまうため、取引価格は恣意的になりやすく、契約条件も依頼者側に不利となるような条件が含まれていないとも限らない、等々、全体としてのビジネスの透明性が担保されません。業者に宅建業者でない業者が3割も含まれるということも大変気にかかるところです。
日経の記事によれば、こういった業者が増えているのは、相続の増加が一因だ、とありますが、「引き取り業者」に投げてしまった方が楽だと思うほどの面倒な相続上の問題を抱えているのであれば、そこはやはり司法書士や税理士などの専門家の助力を得るべきです。
ケースによっては、国庫への返納という選択もあり得ますが、条件は厳しく、現実的には容易でありません。
特に地方の宅地や戸建、田畑や山林などは、公益性があること(自然保護や治水、国有林の拡充、等)、境界が明確であること、国の政策上必要とされること(国有地に隣接、等)、負債がなく権利関係も整理済であること、等等、条件はさらに厳しくなります。
国庫が受け取らない場合、自治体や民間団体(NPO、財団など)への寄付も考えられますが実際にはNPOなども国や市区町村同様、利用価値がなければ引き取りはしませんし、市区町村は固定資産税などが徴収できなくなるので、資産価値のあるもの以外は受け取りません。
ということで、どうしても今のままでは不動産保有継続の負担が重いため「不動産引き取りサービス」の利用を検討したいのであれば、まずは正規の宅建業者複数社にお声をかけて比較されてみることをお勧めします。
付け加えれば、この「不動産引き取りサービス」への参入業社が、顧客から「負動産」を引き取った後、どのような形で「負動産」を価値のある物件に代えているのかが筆者には大変興味あるところですが、取引の透明性確保のためには、そのあたりもある程度のオープン化が求められるのではないかと思います。