今回のコロナ騒ぎはまだ終息したわけではなく、話題にするには少し性急すぎるのかも知れませんが、東京に緊急事態宣言が出ていた期間中、住宅の建築現場にも実は大きな影響が出ていました。その少し以前から、トイレやバスタブなどの住宅設備機器が輸入元の中国から製品が入らず建物の引き渡しができなかったり、引き渡し予定が大幅に遅れたりしたというニュースは、マスコミでも大きく取り上げられていましたので、ご存知の方は多いと思います。しかし実は建築現場の別のところに、この間もっと大きな影響が出ていたのではないかと筆者は危惧しています。筆者の事務所のある武蔵野市周辺は、住宅地としての環境に恵まれ、比較的広い敷地を持った戸建て住宅の多いエリアですが、近年は、住人の高齢化により50坪60坪の戸建て住宅地が売却され、その跡地に建売業者による2分割3分割された分譲住宅の建築が目立つ地域でもあります。これらの建築現場を、筆者は仕事柄、コロナ禍のここ半年ほど、数多く定期的に観察してきました。(勿論注文建築の現場も含まれますが、昨年後半から注文建築の着工現場は目にみえて減少しています)。そこで気づいたことは、職人がコロナの感染拡大のため仕事ができず、工事がストップしていた期間の、建築途中の建物の管理状態に問題の有る現場がかなり多くあったということです。
急激な感染拡大とそれに続いての緊急事態宣言だったため、個々の建築現場がそれぞれの進行段階ごとに急に工事を止めざるを得なかったことは、やむを得ない面もあったとは思うのですが、どの段階で中断するかによって、それぞれに工事中断の影響を最小限に止める個別の対応が必要だったのですが、ひどいケースでは、外壁の内側に張る防水シートが、貼りかけの状態で1か月余りも何の養生もされないまま放置された現場がありました(防水シートは直射日光に晒されると性能が劣化します。シート施工後は速やかに外装材を貼る必要があります)。また、雨対策が不十分でシート掛けがいい加減にされていたため、構造体の一部が雨曝しになっていた現場や、建物内への侵入防止対策が十分でない現場、等々、極端な例は少ないとしても、工事の中断に区切りの良いところまで慌てて急ぎの施工をしたり、予定の引き渡し日に遅れたため、その後の工事を無理に急がせたりした現場は相当数に上ったのではないかと思われます。工事を急いで良いことが無いのは常識であり、急ぎの工事は手抜き工事や施工ミスの温床となります。
このような建築途中の現場の管理の問題は、施工業者が建築現場に近い業者であれば、ある程度定期的な現場の見回りを行うことによって防げますが、業者が遠くから遠征して来ているような現場では、今回のような状況においては、どうしてもチェックが甘くなり、最悪のケースでは現場は放置されたままとなってしまいます。(残念ながら施工業者が現場に遠いというケースは、注文住宅よりも建売住宅の方に多くありがちです。)。そして問題をさらに難しくしているのは、特に建売住宅では、工事が完成し、きれいに外側に化粧が施されてしまうと、最早上記のような施工の状況や欠陥をチェックしようがなくなる、ということです。上記に述べた件の雨曝しだった住宅も、この秋口にはもう無事に?買い手が付いてしまっていました。
降って湧いたような「テレワーク」という新しい働き方に触発されたためか、ここにきて特に戸建て住宅への需要が高まっていますが、住宅は建ってしまってからでは中身の良し悪しはもうわかりません。だからこそ余計に、筆者はここ数か月の間に建った住宅の品質には懐疑的にならざるを得ません。