7月26日の各新聞紙上で、日本の大手自動車メーカーの業績悪化とそれに伴う
リストラのニュースが大きく報じられていたことは、ご存じの方も多いと思いま
す。記事によれば全世界で12500人が人員整理されるとありましたが、幸
い?なことに、日本におけるリストラの規模は800人ほどだそうです。しかし
ひと昔前であれば、一旦就職してしまえばほぼ一生の生活が保証されていたであ
ろうこのような大企業ですら、いつ何時不測の自体に立ち至るか予想もつかない
時代になっていることには、改めて驚かされた次第です。
では、大企業の今回のリストラの話と住宅ローンの話と、一体どんな関係がある
のでしょうか。実は同じ日の某新聞に「令和の時代の住まい選び」と題された住
宅広告特集が折り込まれていたのですが、私には、このタイミングでのこの住宅
広告の内容の方に非常に気になる点があったのです。それは文面をそのまま抜粋
すれば「今年に入ってから住宅ローンの金利水準が一層低下し、長期固定金利型
が有利になっている。住宅ローンの面から見れば住宅購入・新築に有利な時期が
続いている」という箇所であり、おそらくこの住宅広告特集の全体のねらいも、
上に抜粋した文面の内容が示すとおり、「金利が低く住宅ローンが借りやすい今
は、ローンを組んで家を建てるのに良い条件の時期なので、この時期を捉えてマ
イホームの夢を実現しましょう」という住宅業界をあげたマイホーム建築推進の
PRにあったことは明らかでした。この住宅広告特集には国土交通大臣が顔写真入
りでコメントを寄せており、国土交通省としての今後の住宅行政における重点的
な取り組み施策について紹介していましたが、ZEH住宅化や長期優良住宅化によ
る住宅の省エネや耐震性能の一層の向上、昨今の空き家問題を睨んだ、既存住宅
流通・リフォーム市場の活性化(安心R住宅制度)やマンション管理の適正化・
再生の推進、住生活基本計画の見直しの検討、等とあわせて、この10月からの
消費税率引き上げ後の住宅取得を促すための住宅ローン減税の期間延長、すまい
給付金の拡充、次世代住宅エコポイント制度の創設、住宅資金贈与の非課税枠の
拡充、などによる住宅需要の喚起について触れた最後に、「長期・固定金利の住
宅ローンの供給を積極的に進めている」旨が強調されていました。しかし残念な
ことに、この住宅広告特集では、せっかくの大臣のコメントの前半部分の施策に
ついては全く触れず(筆者にはリフォーム市場の活性化など、前半部分の対策こ
そが重要部分なのではないかと思われたのですが)、後半の、おそらく消費税増
税に伴う住宅需要の落ち込みを防ぐための住宅消費刺激策についてのみ、紙面を
割いてPRされていました。
なるほど、国土交通省も住宅業界を後押しする立場にある以上、新築住宅需要の
喚起という、住宅業界寄りのスタンスを取るのは或る意味当然かもしれません。
しかし、こと消費者としての立場から現状を見た時、大臣のコメントを載せてま
での低金利を理由とした住宅建築推進のPRにはいささか違和感を感じたのです。
つまりは「低金利」の現在は、本当に「住宅取得に有利」な時代なのでしょうか。
ここで「年収倍率」という指標があります。住宅の価格が年収の何倍に相当する
かという、住宅の購入し安さの指標です。1990年代以降、国の住宅政策の基
本として、この年収倍率を概ね5倍程度にする、という長期的目標が設定されて
きました。その本来の趣旨はバブルによる土地価格の高騰を主因とする住宅価格
の高騰を是正することに主眼があったわけですが、5倍以内という数字の根拠は、
おそらく当時の公庫の返済比率の上限や頭金の平均、民間融資との兼ね合い、な
どを加味した想定が、年収600万円、頭金2割の場合の住宅購入可能額を36
00万円として年数倍率が約6倍、というあたりの計算にあったのではないかと
推定されます。しかし実際には、東京カンテイなどによれば、東京都の場合、2
008年の新築マンション平均価格は約5698万円に対して平均年収610万
円でしたので、所謂年収倍率は約9.34倍、2018年の新築マンション平均
価格6904万円に対して平均収入556万円(年収倍率12.4倍)と、目標
設定当初から現在に至るまで、「年収倍率」は概ね5倍程度という目標とはかけ
離れた数値で推移して来たのが実情です。勿論年収倍率5倍という数字はあくま
で目安であって、個々人の収支状況や返済能力によって無理のない住宅購入額の
基準は異なります。また新築マンションの場合、価格5千万円以上の価格帯のマ
ンションの比率が過去10年間で20%強から50%強に増えていることが、そ
の平均価格を押し上げた可能性もあります。所謂億ションも数は少ないですが倍
増しています。また戸建住宅に限れば、同じ価格であっても広さ(坪数)の減少
がみられたりしますので、単純に年収倍率と言っても平均数値だけでは判断が難
しい面もあります。ただ、2008年6月における住宅金融支援機構のフラット
35金利が3.05%(期間21年以上)、これに対して10年後の2018年
6月の金利が1.09%(同上)と、2008年~2018年の間、住宅ローン
金利は一貫して下がり続けているにもかかわらず、東京都における2008年の
新築住宅着工件数は15万戸、2018年の件数は14.4万戸と、世帯数増加
の中でも着工件数は減少しており、家計の住居費支出割合はほぼ15%前後と横
ばいが続いている(総務省、家計調査)ことから、「ローン金利の低下」が必ず
しも消費者側にとって「住宅取得に有利」な環境を生み出してきたとは言えない
のではないか、ということなのです。その理由としては、2008年から201
8年にかけての10年間に大きく変化した旧来の年功序列終身雇用という賃金雇
用形態の崩壊と、年収の平均をとってしまっては見えてこない同世代間の収入格
差の拡大、すなわち、平均値以上の少数派と平均値以下の多数派の分布という傾
向の拡大が影響しているのではないか、などが考えられます。20年30年とい
う長期に渡る負債の返済期間を考える時、嘗てのような、住宅ローンも高金利だ
がそれを帳消しにできる右肩上がりの賃上げが続いた時代と、住宅ローンは低金
利だが、大企業の社員と云えども10年先の収入が見通せない時代のリスクの所
在は異なります。そのことを無視した、「低金利だから住宅はお得」的発想は、
筆者には、消費者への過度な負債リスクの転嫁を助長しかねない、住宅供給者や
国の景気対策的発想と思えてならないのです。また、変動金利ローン等も、本質
的には将来の金利上昇リスクの消費者への転嫁に他なりませんし、共稼ぎである
がゆえの過度の負債の抱え込み、等を考えれば、低金利の時代ではあっても、借
りる側のリスクは確実に高まっていると判断すべきではないでしょうか。まして
や、将来の人口減と家余りが、その先で、せっかく多額の負債と引き換えに得た
住宅資産の価値の下落を予想させるとすれば、住宅取得の損得勘定を改めて慎重
に考えて見る必要も有るのかもしれません。


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