武蔵野周辺は、戦後からの戸建て住宅が多く、相対的に良好な住宅地としての街並みが維持されてきました。しかし、近年は少子・高齢化の時代の波に抗えず、少しづつ、その景観も崩れ始めているようです。
そのなかで、最近特に気になるのが、60~70坪の比較的広めの戸建て住宅が売却され、それが二つに分割されて2棟の分譲住宅となって売りに出されるケースが目立つことです。私の住まいの近くでも、このところ立て続けに2か所で同じ状況が起きました。
どちらのケースも、住んでいた老夫婦がお亡くなりになり、お子様が跡を継がずに、建物ごと売却され、結果的に見事に2棟の建売住宅として売り出されたのです。
元々の2軒のお宅はどちらも70坪前後の成形地で、そこにはまだ築20数年の某ハウスメーカーによる2階建ての注文住宅が建っていました。私はたまたまそれら2軒の家の新築中から建築の様子を見て知っており、中を精査したわけではありませんが外見からは、まだまだ少し手を入れれば十分居住に耐え得る、良好な建物に見えたのですが、残念ながら見事に2棟とも解体されてしまいました。実際の売却額はわかりませんが、販売価格はどちらも「古家有り」で6500万円前後でした。(築年数から推察するに建物は評価ゼロでの販売価格だったはずです)
どういう業者がその建物を建て、どのような人がそこに住み、どんな生活を送り、現在に至ったのか、ある程度身近で見て分かっっていた私にとっては、この2軒の物件は中古住宅として価格以上の価値がある、お買い得の物件と思われましたが、そのような情報を知りえない購入希望者にとっては、建物の実際の価値はわからず、土地の値段のみの評価価額での判断となりますので、6500万円の土地に上物をつければ8000万円を優に超える資金が必要ですから、現在の戸建て住宅一次取得希望者層にはさすがに手の出ない価格帯となってしまいます。つまりは、この地域では、もう戸建て用で60坪を超えるような広さの土地は高すぎて、買い手がつかないのです。畢竟分譲業者が買いたたき、土地を二つに割って2軒の建売住宅を1棟6000万円前後で売り出すことになります。
勿論、相続した土地を自分で利用しないのであれば、売却するのは当然です。一方二つに割って購入可能な価格帯の建売住宅として売りに出されたからこそ、購入できて、マイホーム保有の夢を実現できた人達がいるのも当然です。
住宅の有り様が、需要と供給という市場経済にほぼ委ねられている日本の現状では、致し方のないことなのでしょうが、しかしこの現象を大所高所から見た時、いくつかの負の側面も見えてきてしまうのは、やはり残念というほかありません。すなわち
1)客観的に見てまだまだ解体する必要のない価値の残る建物が、みすみす解体されてしまう、という社会的損失
2)家余りの時代に1軒が2軒となり、家余りがますます加速していく、という逆行現象
3)土地が余り、空き地が増える一方で、特定の地域においては余裕のあった街並みが崩れ、隣家の塀が迫る窮屈な街並みが出現する、という歪み
4)『片流れ』などといえば洒落て聞こえるが、本当のところは斜線規制で無理やり屋根を半分削り落としただけの、デザインも何もあったものでは
ない、気候や風土と全く相いれない外観の家の乱立。
等々。
まさに今の時代は、住宅の拡散と収縮という、逆の流れが同時に起こっている、潮目の時代なのだということなのかもしれません。