この10月より、住宅金融支援機構が提供する固定金利の住宅ローン“フラット35”における金利優遇の条件が見直されます。
具体的には、省エネなどの性能の高い住宅に対する金利優遇の条件が、住宅の性能レベルによってさらに細かくランク付けされることになります。
実は、22年度の税制改正において、住宅ローン減税の減税幅に関しても、住宅の性能レベルによって減税幅に差が付く措置が既に取られています。
また、住宅購入の際の優遇措置として、他にも「こども未来住宅支援事業」「住宅取得にかかる贈与税非課税措置」等がありますが、これらの優遇措置も住宅性能によって優遇幅に差が付いています。
このように、住宅の購入を検討されている消費者にとって、住宅の性能レベルは住宅購入コストに影響する重要な要素なのですが、この住宅の性能基準の枠組、フラット35や住宅ローン減税関連だけでも、ZEH住宅(ZEHには更に、NearyZEH、ZEHOriented、ZEH Ready 、といったレベルがあります),認定長期優良住宅、認定低炭素住宅、建築物省エネ法省エネ基準住宅、性能向上計画認定住宅、フラット35適合住宅、等があり、また別の枠組として、東京ゼロエミ住宅、地域型グリーン化住宅、LCCM住宅、更には性能の各項目をランク付けする物差しとしての住宅性能表示制度、BELS(省エネ性能表示制度)、より基礎的な住宅性能の基準として建築基準法耐震基準、等々と、基準の枠組だけでも相当な数に上っており、肝心の建主である消費者の目線から見ると、これらの全体像を理解することは、最早殆ど不可能なレベルとなってしまっています。
ではなぜここまで住宅の性能基準が乱立してしまったのでしょうか。その原因はいろいろ推測できますが、大きくは以下の3つに要約できるように筆者は思います。
1.多発する自然災害への対応
2.特に近年における、エネルギー危機・環境汚染に伴う、温室効果ガス削減・カーボンニュートラルへの世界的要請
3.縦割り行政の弊害
以下に、主な住宅性能基準に係る様々な枠組みとその枠組が求める基準をまとめてみます。
主に、耐震性能に基づく基準部分と、断熱・省エネ性能に基づく基準部分の抜粋です。
【建築基準法】 建築物が最低適合すべき敷地・構造・用途などの基準を定めたもの
<耐震性能に基づく基準>
・当該法に定める耐震基準(数百年に1度の地震で倒壊しないレベル)を耐震等級1とする。
・当該法に定める壁倍率(厚み15cm,幅9cmの筋違を入れた壁)を壁倍率1.0とする。
【品確法に基づく住宅性能表示制度】 住宅の性能を項目ごとに評価し表示するための基準や手続きを定めたもの
<耐震性能に基づく基準>
・上記の耐震等級1を基準に耐震等級2(等級1の1.25倍の強度)
耐震等級3(等級1の1.5倍の強度)、を定める。
<断熱・省エネ性能に基づく基準>
・断熱等性能等級1~4(2022年4月以降順次5~7を追加)を定める。
・1次エネルギー消費量等級1~5(4月以降等級6を追加)を定める。
<劣化、その他の性能に基づく基準>
・劣化対策等級1、等級2(半世紀持つレベル)、等級3(80年程度持つレベル)
・維持管理対策等級1~3
・高齢者配慮対策等級1~5、を定める。
【建築物省エネ法に基づく省エネ基準】住宅の窓や外壁などの外皮性能(断熱性能)を評価する基準と、
設備機器等の一次エネルギー消費量を評価する基準の2つから、
住宅の省エネ性能を評価する仕組み
・平成28年改正省エネ法に基づく省エネレベルを
断熱等性能等級4レベル、1次エネルギー消費量等級5レベル、とする。
・令和4年改正省エネ法に基づく省エネレベルを
断熱等性能等級5レベル、1次エネルギー消費量等級6レベル、とする。
・令和4年10月以降、断熱等性能等級6&7レベル,を新設する。
・令和7年以降、すべての新築住宅で、平成28年省エネ基準(断熱等級4)を義務化
【BELS、Building&Housing Energy-efficiency Labeling System】省エネ性能を5段階評価で表示したもの。
【フラット35適合住宅】
<耐震性能に基づく基準>
・耐震等級1以上
<断熱・省エネ性能に基づく基準>
・断熱等性能等級2以上
(但し、2023年4月以降は断熱等性能等級4,1次エネルギー消費量等級4、以上)
【ZEH住宅】断熱(外皮基準)+省エネ・創エネ設備機器(一次エネルギー消費量基準)で住宅の実質エネルギー消費量を
ゼロに近づける住宅
<断熱・省エネ性能に基づく基準>
・断熱・省エネ性能基準として「ZEH相当」基準の設定
「ZEH相当」基準=断熱等性能等級5,1次エネルギー消費量等級6、
(UA値による外皮基準、再生可能エネルギーの導入、導入後の1次エネルギー消費量の更なる削減、等)
【認定長期優良住宅】定期的メンテナンスの義務化により、長寿命化を狙った住宅
<耐震性能に基づく基準>
・耐震等級2又は3、又は免震建築物であること。
<断熱・省エネ性能に基づく基準>
・断熱等性能等級4(但し2022年10月より「ZEH相当基準」レベルに引き上げ)
<耐久性能に基づく基準>
・劣化対策等級3,維持管理対策等級3、であること。
【認定低炭素住宅】市区町村における「低炭素まちづくり計画」区域内で一定の省エネ基準を満たす住宅
<断熱・省エネ性能に基づく基準>
・断熱等性能等級4,1次エネルギー消費量等級5,レベルとする。
<その他の条件>
・木造住宅+節水設備機器の設置、等、2つ以上の選択条件を満たすこと。
・太陽光発電設備設置義務化(2022年10月以降)
【東京ゼロエミ住宅】ZEHを超える省エネ・創エネ性能を備えた東京都独自の規格による住宅
<断熱・省エネ性能に基づく基準>
・ZEH基準を上回る断熱性能と、1次エネルギー消費量28年基準より更に40%削減
【地域型グリーン住宅】(地域型住宅グリーン化事業) 国の採択を受けたグループにより供給された高性能な木造住宅
<基本条件>
・認定長期優良住宅又は認定低炭素住宅であること。または以下の条件を全て満たすこと。
<耐震性能に基づく基準>
・耐震等級2又は3レベルであること。
<断熱・省エネ性能に基づく基準>
・「ZEH相当」レベルの省エネ性能であること。
【LCCM住宅(Life Cycle Carbon Minus)】資材調達、建設、居住、修繕、解体の全ライフサイクルを通じて
CO2排出をマイナスにする住宅
<断熱・省エネ性能に基づく基準>
・ZEH相当の省エネ
・再生可能エネルギーを除き、1次エネルギー消費量が現行省エネ基準の更に25%減。
・ライフサイクル全体のCO2排出量が0となること。
大枠は以上となりますが、次回はそれぞれの性能基準の問題点についてお話しします。