家族と住まいのライフサイクル(後編)
~マイホームの長期的視点からの維持管理計画が重要~
ところが、バブル崩壊から以後、長引く経済の長期低迷を経て、現在、そこに住む家族のライフサイクルと住宅との関係には大きな齟齬が生じている、というのが筆者の実感です。その最大の原因は長寿化です。40歳代に憧れのマイホームを建てた人たちにとって、その30~40年後、まだ世帯主の人生が終わらない間に、もう一度、建て替えか大規模リフォームかという、新築に匹敵する資金を必要とする事態に直面してしまうのが今の時代です。
よく、老後資金として、年金以外に3000万円が必要だと云われますが、この数字には我が家の建て替えやリフォー費用はおそらく含まれていないでしょう。日本における持ち家の主体は木造家屋ですが(持ち家のもう一つの形態である区分所有のマンションが抱える問題については別の機会にお話します)、実は木造住宅は、定期的なメンテナンスをきちんと行えば、少なくとも50年・60年は持つものなのです。しかしそのためには、メンテナンス費用として30年間で最低でも500万円以上は必要と云われています。現役時代はローンの返済に追われ、退職金でローンを完済してもあとは年金に頼る生活では、この間の500万円は半端な出費ではありません。おおかたは、我が家をなだめすかせつつ、なんとか費用を抑えて30年40年引っ張ってしまっているのが現状でしょう。その結果、まだ自分が元気な間にもう一度、建て替えか大規模リフォームと言う大きな出費を必要とする事態に立ち至ってしまうのです。
国は、量から質への住宅政策の転換の過程で、「長期優良住宅」の認定制度の導入などにより、ワンランク上の長持ちする住宅の普及に力を入れてきましたが、この「長期優良住宅」も、実は「長期優良住宅」であることの認定を維持するためには、定期的に決めたれたメンテナンスを実施することが義務つけられており、それを怠れば「長期優良住宅」の認定が取り消されてしまうことは、あまり注目されていません。そして当然、メンテナンスには、何百万円単位の費用がかかってきます。ローン金利の優遇などの適用によるプラス面を差し引いても、長持ちさせるためには費用もかかる、ということなのです。このように、「長持ちする住宅」は、確かに概念的には日本人の長寿命化にともなうライフサイクルの長期化にあわせた住宅の長寿命化・住宅のライフサイクルの長期化の試みと云えますが、一見、そこに住まう人と家とのライフサイクルの合致が試みられているようですが、問題は、リタイア後の生活の長期化のもとでの、病気や介護の負担増、貯蓄の取り崩し、生活諸資金の先細り・枯渇のなかでの住宅維持費のさらなる増大、という事態に私達の老後の生活は本当に耐えられるのだろうか、ということであり、それは「長期優良住宅」であっても例外ではない、ということなのです。結論を言えば、今後、世帯主本人が生涯に渡って自分の住居を維持することは難しくなるのではないかというのが、筆者の正直な感想です。そしてそうだとすれば、私達は今後、「マイホームの長期的な視点からの維持管理計画」についてもっと真剣に考えていかなければならない、ということになります。
「空き家」の問題も、その根底に、住人と住まう家とのライフサイクル上のミスマッチが影を落としているように思えるのです