2020年、東京で2度目のオリンピックがいよいよ開催されます。
さてそのメイン会場となる新国立競技場については、グランドデザインを建築家の隈研吾さんが手がけていることでも話題となっていますが、隈さんといえば、木を多用した「和」のイメージのデザインが有名です。
今回の新国立競技場にも、期待にたがわず大量の木材が使用されていますが、今回さらに特徴的なのは、それらの木材が全国各地の木材産地の木材を集めている点です。
今回の新国立競技場建設にあたって、東京都は全国の木材産地からの熱心な売り込みを受けて、資材の調達先を決めたと聞きました。或る意味で新国立競技場は国産木材のオンパレード、といった感があります。確かに、日本で開催されるオリンピックのメイン会場が、豊かな日本各地の森林から切り出された木材で作られるということは、諸外国にたいする大きなPRとなり、大変喜ばしいことだと思います。ただ私は内心では、東京で開催されるオリンピックなのだから、そのメイン会場となる競技場はすべて、とは言わないまでもできる限りは東京産の木材で作ればよいのに、と思っていました。しかし現実は、東京産の木材(多摩産材)の利用はごく限られた部材に限定されてしまったようです。世界的大都市東京にも森があり、そこから日本の伝統的な建築資材としての木材が産出されており、しかも「多摩産材」というブランド名すらついているのに、この事実をオリンピックという、世界に向けた情報発信の絶好の機会になんでもっと活用してPRしないのだろうか、私はこの点に関しては今だに個人的に非常に残念に思っています。勿論様々な制約があっての現実なのでしょうが、国家的課題としてもCO2の削減が叫ばれ、パリ協定によるCO2削減の目標値まで定められている状況で、行政による取り組みももっと積極的であってよいのではないか。「東京の木多摩産材認証協議会」による「多摩産材認証制度」が平成18年にスタートして早10年以上を経過しているのに、「多摩産材」への都民の認知度が目に見えて広がらないのは、なんとも勿体ないことではないか、等々言いたいことは色々あります。確かに「多摩産材」に関係する当事者側にも問題はあります。川上の供給側の問題として、生産量が少ないこと、材質などにばらつきがあること、流通経路の硬直性、様々な要因によるコスト高、など。川下の需要側の問題として、木材需要の低迷(木造注文住宅の着工数の減少)、外国産材や集成材との競争、実際に家を建てる側にとっての産地を選ぶほどの強い動機の欠如、等々。しかし一方で、近年様々な形で木材の新しい活用方法が開発され(例えば、木造高層住宅が建築可能なCLT直交集成板の開発、原材料に木質を使うセルロースナノファイバーの発明、など)、今後住宅需要の高まる海外へ向けた国産材の輸出の展望も広がりつつあります。全国の木材産地の中には、後継者難、国内需要の減少、などの逆境の中でも新しい活路を見出そうという様々な取り組みがみられます。「多摩産材」についても、関係各部門(行政、生産者、流通、建築業者、など)がもう一度一丸となって盛り立てていく強い動きが必要なのではないでしょうか。
(東京三鷹の住宅展示場に、100%多摩産材を使ったモデルハウスがこのほど完成しました。ご興味のある方はご覧になってみてはいかがでしょうか)