住宅性能評価制度、長期優良住宅、低炭素住宅、ZEH、東京ゼロエミ住宅、等々現在、住宅の性能を評価する基準は素人には訳が分からないほど、乱立しています。

その種類と大まかな基準は前回のブログでまとめた通りです。

筆者は大きく言って、以下の2つの側面から、現状のような住宅の性能評価の基準の乱立には懐疑的です。

ひとつは建て主(私達消費者)にとって、これらの基準の内容があまりに専門的に過ぎてわかりづらく、ましてや相互の基準間の違いも分かりづらい事。二つ目は、折角大々的に国や自治体をあげて基準を作り、税制優遇を煽っておきながら、新築時に認定されたこれらの住宅が、10年後20年後においても認定住宅にふさわしい、正当な価値評価を得られるシステムが確立していないこと、です。

大手のメーカー間での内輪の既存住宅の評価流通システムはありますが(スムストック住宅)、例えば、長期優良住宅の認定を取った住宅が、20年後においても認定長期優良住宅としての正当な評価(一つには20年後まで実際に長期優良住宅としての性能を維持できているかどうか、という性能面での評価と、20年後においても不動産仲介業者や実際の買主などが正当に評価をしてくれるか、という流通面での評価)を維持できているかどうかは、甚だ疑問です。

何故なら長期優良住宅の認定はあくまで設計図面上での審査に過ぎず、実際の住宅性能は個々の物件ごとの施工の精度に大きく左右されるからです。また定期的なメンテナンスを義務付けているからこそ、長期優良住宅は長期に渡ってその基本的住宅性能が維持されるはずなのですが、義務付けられているはずの定期的なメンテナンスがその目論見通りに正しく実施されているかどうかについても甚だ疑わしいと云わざるを得ません。

畢竟、既存住宅の流通市場に長期優良住宅が投入され、価格が長期優良住宅としての割り増し価格となっていたとしても、その中身の正当性は保証の限りではなく、筆者であれば割増の価値があるかどうかは、最終的に買い手が自らインスペクションを実施してチェックしない限り、判断の仕様が無いと思っています。

問題点は他にもあります。認定長期優良住宅についてはやっと先年、土砂災害特別警戒区域などの自然災害のリスクが特に高い区域については認定を認めない条件が加わりましたが、基準改定前に災害リスクの高い地域に建った長期優良住宅はどういう評価をすればよいのでしょうか。

同様にZEHには立地に関する制限が未だにありません。災害時に停電した際のZEHの優位性が喧伝されていますが、ZEH住宅が床上浸水の被害にあった際には、蓄電システムや蓄電地代わりの電気自動車を2階に上げろとでもいうのでしょうか。

更にはZEHには耐震性を問う基準もありません。住宅性能とは、断熱性能や省エネ性能だけでなく、耐震性能や耐久性能を含めた総合的な見地から評価されるべきものであり、たとい昨今の風潮が、エネルギー危機や全地球的環境破壊に対する危機感からCO2削減指向一色だからと云って、昨今の住宅性能基準の内容が省エネ断熱ばかりに傾斜しすぎている現状はあまりにバランスを欠きます。

太陽光発電の必要性は理解できます。しかしZEHなどにおける太陽光発電システムの設置等に伴う構造耐性の低下は、台風による強風や地震の際の構造上の耐力を弱めているはずです。

一方これは日本における縦割り行政の弊害と云っても過言ではないと思うのですが、例えば国の基準としてのZEH(Zero Energy House)と、東京都独自の基準としての東京ゼロエミッション住宅とがあります。方向性は同じなのに、なぜ2つの独立した基準が敢えて必要なのでしょうか。ZEHの基準の上に更にその上をいく基準を求めるのなら、ZEHの基準をクリアしたうえで上乗せした基準分を加えれば事足りるはずなのですが、それぞれの認定申請のためには全く別々にゼロからの申請が必要です。当然に2つの併用は認められていません。これでは無駄以外の何物でもありません。

コスト上の問題もあります。住宅が高性能化すればするほど、当然に住宅価格は上昇します。

只でさえ、ウッドショックと世界情勢の混乱で、住宅の資材価格は高騰しています。そこに住宅の高性能化に伴うコストが加われば、最早一般の中間層にとって、新築持ち家は高根の花です。高性能住宅の奨励のために目いっぱいの税制優遇策などが準備されていますが、それでも長期的に見れば高性能住宅の取得と維持のためのコストアップは避けられません。

限られた新築住宅の取得者向けの税制優遇より、例えば圧倒的な数の既存住宅における窓ガラスの複層化の奨励だけでも、同じ予算でよりCO2削減効果の大きい政策はあり得るのではないかと思わずにいられません。

勿論、2050年までにカーボンゼロを達成しなければならない、という全世界的な課題への取り組みとしては、居住用住宅のCO2排出量の多さを考えれば、住宅部門における積極的なCO2削減への取り組みが必要なことは云うまでもありません。しかしそうであるならば猶更の事、国民全般に対して、自分たちの住んでいる住宅から排出されるCO2を少しでも削減する必要性への意識喚起のためにも、もっともっと一般人にとっても分かりやすい、環境負荷の少ない住宅の性能基準が示されるべきです。

東南海地震は間違いなく襲ってきます。台風・集中豪雨・ゲリラ豪雨なども、年を追って苛烈になっています。住宅はすべての国民にとっての生活の基本である以上、その基本的性能を底上げすることは国民の生命と財産を守るという意味において、国や行政にとって最重要の課題です。国全体を上げてその課題に取り組むためにも、住宅の性能基準の表示は、広く国民全体にとってその費用対効果を含め、少しでも分かりやすいものであることが望まれます。


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