ここにきて住宅ローンの金利に変化の兆しがうかがえます。欧米におけるコロナ禍後における景気の戻りの過程での急激なインフレと、各国中央銀行による利上げの動きが、日本へも少なからぬ影響を与えているとみるべきでしょう。

また、ロシアのウクライナへの侵攻も、原油をはじめとした世界的な資源エネルギー価格の高騰や、小麦その他の原料価格の高騰による諸物価の上昇圧力となっています。日本においても中間物価は大幅に上昇しており、消費者物価への転嫁も徐々に広がってくるものと思われます。

そこで気になるのが今後の住宅ローンの金利動向です。足元では既に、ベースとなる10年ものの国債利回りの上昇につれて固定金利ローンの金利も上昇に転じています。今後ローンを使った住宅の購入を検討されている方にとっては大いに気になるところです。

さてこの住宅ローンの金利ですが、専門家でもない私達利用者は、日々変動する金利の動きをどのように見ていけばよいのでしょうか。

ひとつの見方として、筆者はよく、ローンの貸し出し側である金融機関の立場で考えてみる、という見方もありますよ、とお話します。それはどういうことかと云うと、お金を貸す側だったらどう考えるだろうか、という視点です。

ポイントは利益とリスク(損)のバランスです。金融機関も営利を目的としている以上、少しでも多くの利益を得ようとするのは当然です。そのためには(1)1件でも多くの申し込みを獲得すること(2)少しでも多くの利幅を取ること(3)損する可能性を少しでも減らすこと。以上の3つのバランスを考えます。

住宅ローンで云えば、金融機関としての信用度、相談し安さ、など選択のための要素は色々ありますが、こと金利に絞れば、(1)の目的のためには他機関より相対的に金利を安く設定することとなりますが、安くし過ぎると(2)がマイナスになってしまいます。一方(3)は日本の場合、住宅ローンは比較的貸し倒れが少ないと言われているため、(3)の目的のためには各行とも(2)は多少犠牲にしてでも(1)により注力しようとしがちです。

では変動金利ローンと固定金利ローンはどう考えればよいでしょうか。

変動金利ローンの金利水準は短期プライムレート(1年以内の優良企業に適用する最優遇貸出金利)によって決まり、半年ごとに見直しとなりますが、市中金利の変動に連動して変動金利ローンの金利も動きますので、基本的には貸し出し側の金融機関にとっての金利変動リスクはありません。その意味では変動金利ローンは金利の変動リスクを借りる側に転嫁したものだとも言えます。

一方固定金利ローンの金利は10年物の国債利回りをベースに決まりますが、長期になればなるほど先々の金利の予想は難しい為、将来の金利上昇のリスク負担を回避するために、貸し出し側の金融機関は想定される将来の金利の変動幅を多めにとるため、金利は相対的に高めに設定されがちです。従って多くの場合、ここ半年以内の予想金利水準をしめす変動金利ローンの金利は、10年先以上の金利の予想水準を示す固定金利ローンの金利より低くなります。

そのように考えれば、ここにきて、変動金利ローンの金利はほとんど上がらず、長期の固定金利ローンの金利が上昇に転じている、ということは、金融機関が、直近では金利はまだそれほど上がらないが、今後は長期的に見て、金利は上昇するだろうと判断している、ということになります。(但し他社との競争原理を優先するためにローン金利を敢えて低めに設定したりする場合はあります。特に貸し出し側にとってリスクの少ない変動金利ローンにおいて、そのような傾向がみられがちです。)

また、「固定期間選択型ローン」は現在の金利環境では、ある意味貸し出し側の金融機関にとって都合の良いローンです。

なぜなら、この商品は、金利変動のリスク幅が小さい、或いは金利の変動幅が予想し安い、直近の数年間だけ固定金利にすることによって、その間の変動リスクさえ負えばよく、その先の、金利変動のリスク幅を予想し辛くなる期間については、変動金利にすることによって金利変動リスクを借り手に転嫁してしまう商品だからです。

そのように考えると、「固定金利選択型ローン」は貸し手の金融機関にとってリスクの少ないローンであり、借り手側にとって不利なローンなのですが、借り手側にとって有利な「変動金利選択型ローン」という商品は残念ながら提供されていません。

以上の結果、現状では「変動金利ローン」の方が「固定金利ローン」より金利が安い為、利用者はどうしても「変動金利ローン」を選択しがちです。(住宅金融支援機構の2021年4月の調査では、なんと68.1%の人が変動金利ローンを選んでいます。)

しかし結論を申し上げれば、変動金利ローンと固定金利ローンがどちらが得なのかは、わかりません。将来の金利は神のみぞ知る、です。現状の諸条件を固定化して将来の支払い利息の総量を計算しても、現状の諸条件が将来に渡って保証されるものでない以上、結局のところ無意味です。

ただ、今回の経済政治両面での変化は、ここ40年間続いた「平和の中での経済のグローバル化」の終焉を意味し、新しい世界秩序が固まるまでの長い混乱の時代の始まりなのかもしれません。

住宅ローンの返済は少なくとも30年前後の長期に渡るものである以上、この先の30年間も過去30年と同じように比較的無難な経済環境のままでいられると考えることは、ここ数年の世界の動きを見る限り、甘い見通しに過ぎると云わざるを得ないでしょう。

ちなみに今から32年前、バブルが終わった直後の1990年における住宅ローン金利は民間金融機関の変動型で8.5%(店頭金利)、当時の住宅金融公庫の固定金利型で5.5%(基準金利)でした。(郵便局の3年物定期の利息は6.33%でした)。

住宅ローンはその性格上、長期に渡って返済義務が継続します。一方、現在そして今後の世界は、ますます目まぐるしくその環境が変わる、見通しの建てにくい時代となるでしょう。

その意味では、負債だけが確実に長期に渡って続く住宅ローンは、組むこと自体が既にして大きなリスクである、という認識も必要です。

また、金利の動向に注視する以上に大事なことが、ローン返済の原資となる収入を、長期に渡って確実に確保することにあることは云うまでもありません。

日本においては、住宅、特に戸建て建物の資産価値は、購入後は実際の価値以上に急速に低下します。投入価値(購入価格又はローン返済額)と残存価値(資産価値)の差が、持ち家の満足感に充分見合うものかどうかの吟味も必要だといえます。

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