吉祥寺の事務所への行き帰りに日課としている街並みウォッチングで、最近の住宅街を歩いていて目に付いたことをお伝えします。東京の西部、いわゆる武蔵野エリアの近況です。
・売りに出ている土地が増えている(買い手が付かず、売り出し期間が長期化している)
・建築現場が減っている(特に建売の売り出し物件が減っている)
・建売業者が土地だけを売っている
・大手メーカーのリフォーム工事現場が相対的に増えている
・数は少ないが、大手業者による介護施設や保育施設、賃貸アパート、等の比較的大きな工事が、その分、逆に目立つ
ハッキリ言って住宅業界はコロナを境に様変わりです。
(1)コロナ感染拡大初期―海外からの資材の輸入途絶による価格高騰と工事のストップや遅れ(所謂ウッドショック)
(2)コロナ感染蔓延期―在宅勤務・リモート勤務の浸透による郊外戸建て住宅の思わぬ特需
(3)コロナ感染終息期―円安や物価高に伴う資材価格の高騰や人手不足の顕在化、等による住宅価格の高騰。
物価高に追いつかない実質所得の低下が重なり、戸建て住宅需要が急激に落ち込み
現在はまさに、上記の(3)の状況にあることが、街中を歩いていてもすぐにわかります。
建設物価調査会のデータによれば、2015年比で東京の木造戸建ての建築コストは3割強上昇しており、注文戸建て住宅の市場価格も、押さえられてはいるものの、人手不足も顕在化したため、ここ数年で2割の上昇です。
年明け以降も住宅価格が下がることは恐らく期待できないと思います。
国は特に子育て世帯向けに、住宅取得の際の税制優遇を図っていますが、もともと長期優良住宅やZEH等、CO2削減を狙ったいわゆる省エネハイスペック住宅への社会的要請が結果として住宅価格を吊り上げており、マンション価格の高止まり(新築、中古共に)もあって、若年層や中間所得層にとってマイホームの夢は遠いものになりつつあります。
25年からの東京都の太陽光発電設備設置義務化も、住宅価格自体がここまで高騰すると、高額所得者だけが税制優遇を受けて、より快適な省エネ住宅を手に入れることができる、などという、おかしな事態になりかねません。
そんな環境下で最も影響を受けているのが、地場で戸建ての注文住宅を請け負う工務店です。以前から既にその傾向はあったのですが、勝ち組は1エリアに1社、1強多弱どころか弱者では生き残ること自体が難しい局面になってきています。倒産も、今年は近年にない数にのぼりました。
住宅ローン金利に目を向ければ、現状では固定金利は上昇しても、変動金利の上昇は抑えられていますが、経済が普通に金利のある世界に戻れば、おっつけ変動金利も動いてくるはずです。新規ローン設定の7割が変動金利になっている現状では、今後の金利動向には充分注意が必要でしょう。
また長期的に見れば、社会の変化の激しさ、特に日本の企業社会の岩盤だった終身雇用や年功序列賃金制度の崩壊は、今後ますます将来に渡る賃金の平準化を押し進め、その結果、支出が増える年代に合わせて収入も増えるという日本独自の賃金形態を前提として成り立っていた、30年を超える長期の住宅ローンの存立基盤も不安定になることが懸念されます。
なぜなら住宅ローンは長期に渡る返済が基本ですが、そのためには返済原資も長期に渡って安定的に確保できることが前提となっているからです。
最近話題のジョブ型雇用形態も、一面、賃金のフラット化をもたらします。役職定年制の問題もあり、特に教育資金が膨れ上がる時期のローンの返済不安が表面化するリスクが今後増大してくると思われます。
世界一の長寿国日本ですが、住まいは生活の基盤であり、長くなった寿命に合わせて、如何に住む家を安定的に確保し、その維持保全を図っていくかを、新たな視点で考えていかなければならない時代になってきたのではないでしょうか。
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