先日、久しぶりの同窓会に出たら、参加した古い友人からビックリな話を聴いた。

家を建て替えようと思って大手の施工業者紹介カウンターで紹介してもらった工務店と契約したが、着工を待たされた挙句、工事が始まった途端に工務店が倒産し、現在、現場は野晒しで、弁護士を立てて係争中だというのだ。

実際に動いているのは同居の息子さんで、友人は交渉の詳しい経過は知らないようだが、その場で息子さんに電話して、業者紹介や請負契約の際に「住宅瑕疵担保責任保険」や「住宅完成保証」の話は聞かなかったのか確認してもらったところ、息子さんの反応は「それ、なに?」と云うことだった。

ここでは細かい内容説明は省略するが、「住宅瑕疵担保責任保険(瑕疵保険)」とは、住宅完成引き渡し後に重篤な瑕疵(雨漏りや構造体の欠陥)が見つかった場合に、補修を迅速に履行するためにその修復費用を保険でカバーするものだ。

もともと品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)により、住宅事業者は瑕疵に対する10年間の住宅瑕疵担保責任を負っており、この責任の履行のために、修理費用等の資力確保として「保険」もしくは「供託」のいずれかの措置をとることが義務化されていた。

これが平成17年の構造計算書偽装問題を契機に、住宅事業者が倒産等によって修理等ができなくなった場合、住宅取得者に多額の負担が生じることが明らかになったため、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(住宅瑕疵担保履行法)が新たに成立し、この法に基づく「住宅瑕疵保険」への加入が住宅事業者に義務づけられた経過がある。

一方、「住宅完成保証制度」は、住宅着工中に請負業者が倒産したような場合、住宅の完成までを保証(具体的には保険引き受け会社が工事の引継ぎ業者を斡旋し、前払い金の損失や工事継続に伴う掛かり増し費用の一部を補填)する制度である。

この制度のポイントは、どんな業者でも手掛ける物件にこの保証を付加できるわけではなく、財務面を含めた総合的な信用力に関して保証会社の審査を通過した業者しか利用できないため、結果としてこの保証を付加できるかどうかはその業者の信用力をみる重要な目安となっていることだ。

この2つの制度について知る機会は、私の友人(正確には友人のご子息)の場合少なくとも2度あったはずだ。

1度目は業者紹介カウンターでこの業者を紹介された時。2度目は実際にこの業者と契約を取り交わした時、だ。

筆者はこれら2度の現場のどちらにも立ち会ったわけではないので、事実関係はわからない。しかし「瑕疵保険」も「完成保証」も保険料・保証料がかかるので、事前説明が全くなかったと云うことは逆に考えにくい。ただ、付加が義務付けられている「瑕疵保険」はともかくとして、「完成保証」という制度の存在自体の説明がスルーされていた可能性はありそうだ。

ここで重要なことは、新築住宅の建設や販売時には、資力確保の措置について住宅取得者へ説明する義務があるということが「住宅瑕疵担保履行法」にきちんと明記されていることだ。配布された説明書か何かに、これらの制度について触れた箇所があったはずだと思いたいが、依頼者の記憶に全く残っていなかったのだとしたら、やはり問題は残る。

個人的には今回のケース、同業者でもある某業者紹介カウンターの責任は、法律的にはわからないが少なくとも道義的には多分にあるのではないかと筆者は思う。

おそらく業者紹介にあたっては、免責の覚書のようなものが取り交わされているのだろうが、例えば保険の乗り合い代理店に代表されるような、来店相談客に業者や商品を紹介するサービスは、その対価を相談者からではなく、紹介した業者側から得るケースが多い。

そのため往々にして、現場では相談者にふさわしい業者ではなく、マージンやリベートが多い業者を優先して紹介する、ということが常態化しがちだ。

今回のようなケースを耳にすると、「顧客本位」という理念は、金融保険業界に限らず、顧客に対して何らかのサービスを提供する業界において、あまねく遵守すべき基本のスタンスではないかとつくづく思う。

さて帝国データバンクによれば、昨年の全国での負債1000万円以上の工務店倒産件数は1200件。今年も8月末までで既に1080件を超え、今年の年間倒産件数予想が1600件と、昨年を大幅に超えるのは間違いなさそうだ、という。

倒産の原因は色々考えられる。様々な複合要因がコロナ感染拡大を経て一気に表面化してきた、と云うことだろう。列挙すれば以下のような理由が上げられよう。

<住宅関連資材の高騰⇒販売価格への転嫁が不十分⇒低収益化>

コロナ感染拡大を契機とした、時ならぬ戸建て住宅需要が米国を中心に住宅資材不足を招き(所謂ウッドショック)、これにウクライナの混乱が拍車をかけて、日本においても資材価格が高騰した。

国内の中小業者は急激な資材高騰分を価格に転嫁できず、収益の低下に見舞われた。おそらく価格を上げれば大手の価格帯と競合してしまうので、収益を削ってでも価格を抑えざるを得ないのだろう。

<少子化、世帯数減少に伴う空き家の増大、住宅着工数の長期的減少⇒受注減、需要減>

野村総研の推計によれば2022年度の全国新築住宅着工件数は約86万件。2040年度にはこれが約55万件に減少すると見込まれる。

<断熱・耐震・省エネ、等、高性能住宅への社会的要請⇒住宅の高価格化>

CO2排出削減という全地球的な要請から、ZEHなどに代表される住宅の省エネ化が近年強く求められるようになった。しかしその一方、省エネ化に代表される住宅の高性能化は必然的に住宅の高価格化をもたらし、住宅需要のブレーキ要因となっている。

<家計所得の伸び悩み、格差拡大・中間層の減少⇒家が買えない層の増大>

昨今の諸物価の高騰に家計の所得が追い付かず、実質所得が低下している。それにともない、特に日本の中間層にとってマイホームの夢の実現はハードルが高くなりつつある。

戦後長らく続いた「持ち家志向」にも変化の兆しがみられる。

<慢性的な人手不足⇒工事着工の遅れ、工期の長期化>

近年の慢性的な人手不足が、ここ数年住宅業界でも顕在化しており、熟練工の不足による工期の遅延、長期化も顕著になりつつある。(2024年4月から時間外労働の上限規制が始まり、人手不足に更なる拍車がかかると予想される)

<住宅性能の向上⇒住宅の長寿命化⇒建て替えサイクルの長期化⇒建て替え需要の喪失>

これらの事情から、今後特に地場の工務店が淘汰の波に洗われることは避けられない見通しとなっている。すでにその兆候は表れており、一強多弱、エリアで生き残るのは恐らく1社のみといった厳しい状況になりつつある。

地元でお施主様の為に少しでも良い家を、とまじめに頑張ってきた親方衆には気の毒な話だが、日本の将来的社会構造の趨勢を見れば、住宅業者の淘汰はやむを得ない事なのかもしれない。だとすれば、家づくりを依頼する側にとって施工業者の選択にあたり今後特に重要になるのは、施工業者の財務的な健全度だろう。

勿論財務的健全性のチェックが必要なのは、何も地場の工務店レベルに限ったことではない。世間に名の知れた住宅メーカーとて全く安全とは言い切れない。決算非公表の業者も中にはあり、注意が必要であろう。

また依頼者の側も、業者の選択にあたっては意匠や現場の施工レベルも重要だが、「住宅完成保証」の付加の有無をはじめ、その業者が提示する保証の内容のチェックは絶対に欠かせない。

代金の支払いのタイミングとその金額も、妥当な範囲の契約金と着手金、中間金、完成引き渡し金、といった形での分散支払いとなっているかどうかは、契約前に必ず確認すべき項目である。

このような時代、プロの目利きはますます重要になってきたように思えてならない。

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