住宅業界のここ数年の大きな変化は価格の高騰です。コロナ禍とウクライナの戦争を契機としたウッドショックを経たいまでも、人手不足と資材の高騰による住宅価格の高騰は続いています。

在宅勤務の広がりなどもあり、時ならぬ郊外の戸建て住宅ブームに沸いた住宅業界ですが、ここにきて、価格の高騰が戸建て住宅販売にも大きなブレーキをかけ始めています。注文住宅市場に至っては販売不振は深刻です。

需要が減れば供給側は価格を抑えて需要を下支えしようと価格調整を進めますが、現状ではうまくいっているようには見えません。諸般の事情から、最早価格調整自体が難しくなっているのではないかとさえ思われます。

それほどに、特に戸建て住宅価格の高騰は構造的な問題の様相を呈しています。

一方マンションに関しては状況が異なります。新築も中古も、特徴は都心6区とその他の地域との価格の差がますます広がっていることです。

都心6区については投資家層や富裕層の実需に支えられて、前月比プラスの状況が継続しています。

その理由として考えられるのが、都心のエリアとしての利便性です。在宅勤務の拡がりとはいっても実態の多くはハイブリット勤務(在宅勤務と出社との併用)であり、子育て中の共働き世帯にとって、託児所や職場が自宅から近いことは第一選択肢です。

国土交通省の調査によれば、子育て世代が現在の住まいの環境に対して最も不満が多い項目は、保育・医療・教育と安心安全、となっています。

当たり前ですが子育て世代はその多くが共働きです。共働きであれば子供は施設に預けることになりますが、当然に夫婦のどちらかが朝子供を預け、夕方には迎えに行かなければなりません。

そのためには施設が少しでも自宅の近くにあることが必須条件であり、引き取りの事を考慮すれば夫婦の仕事場からも近いという条件も重要な要素として加わって来ます。

そんな子育て世代が希望するマイホームの条件を、都心のマンションか郊外の1戸建てか、という2択で問えば、恐らく都心のマンションに軍配が上がるのは明らかです。

共稼ぎ世代はダブルインカムと云うことでそれなりに高収入世帯です。近年の都心6区のマンション価格の高騰にも、今のところは何とか耐えられているということなのでしょう。高額なマンション価格ですが、海外投資家の投資対象になっていることだけでなく、こんな実需層にも支えられているわけです。

さて現在国会では、令和6年度予算が審議中ですが、5年度補正で、特に若年世代向けにマイホーム取得を後押しする施策がいくつか盛り込まれ、本年度も継続されています。

<子育てエコホーム支援事業>と<フラット35子育てプラス>です。

対象はいずれの場合も18歳以下の子供の有る世帯、又は夫婦のどちらかが39歳以下の世帯となっています。

<子育てエコホーム支援事業>は新築住宅で長期優良住宅の場合に最大100万円、ZEH住宅の場合最大80万円が助成されます。

<フラット35、子育てプラス>は、子供の人数や住宅性能等に応じて、金利引き下げポイントが付与される仕組みで、1ポイントごとに5年間にわたり年に0.25%ずつ、金利が優遇されます。(年1%が上限で、使い切れなければ次の5年間に持ち越し可能)。

子供が3人いればそれだけで年0.75%の金利優遇となり、固定金利であるフラット35でも変動金利と変わらない金利水準となります。

さて、これらの施策をうまく利用できればメリットは相当に大きいのですが、筆者は一つ大きな懸念を抱いています。それは、これらの施策によって、では実際にどの程度の新たな住宅需要が喚起されるのだろうかと云うことです。

現役世代の実収入は物価高に追いついておらず、前年比マイナスが続いています。しかも対象となる30代~40代の子育て世代はまさに子育てに今が一番お金のかかる年代であり、そこを近年の住宅価格の高騰が直撃しているわけです。

上に述べた共働き世代の一部の富裕層を除けば、昨今の住宅価格は一般的な中間層にとって本当に手の届かないレベルになってしまっています。

つまりは住宅の価格は、もはや優遇施策程度で需要が刺激できるレベルではなく、いくら新築奨励のための優遇策を導入しても、皮肉なことですが、現在の高価格に手の届く裕福層のみを、国や自治体の税金を使って更に優遇するだけという、おかしな結果になってしまうのではないか、と思えてならないのです。

子供の数が多いほど金利の優遇幅が大きくなるとは云っても、この施策があるから子供をもっと産んで増やそうと思うかと云えば、まずそんなことはあり得ないでしょう。

この住宅価格の高騰は、脱炭素の世界的な要請の中での断熱省エネという住宅のハイスペック化がその要因の一つなのは明らかですが、その方向性を否定することはできません。

だからと言って、いまだに新築一辺倒の住宅政策ばかりでは歪みは増々広がるばかりです。

例えば空き家が全国的に増える中で既存住宅流通市場への大規模な資金投入とか、既存住宅の窓の複層化への更なる助成等々、税金をより広い広範な層への助成に使う手立てはあるはずです。

新築ばかりを増やそう増やそうという住宅政策からの、思い切った発想の転換が必要なのではないかと強く思います。

*昨年2023年度の事業「こどもエコ住まい支援事業」について、現状で推定できる範囲で、その成果を算定してみた。

国土交通省のサイトによれば総予算は1710億円、募集は2023年4月~予算消化まで、と云うことだったが、すでに募集を締め切っているので一応12月までの約9か月とした。

国交省発表のデータでは、4月~10月の月別新築住宅着工件数は月平均で約7万戸。このうち(持ち家+戸建て分譲)を全体の4割として約2.8万戸。11月12月も同水準だったと仮定すれば9か月合計で25.2万戸となる。

また国交省の別の資料によれば、注文住宅購入者の年代別割合で30歳代は38.6%とある。ここから、4~12月の新築戸建て住宅着工件数25.2万戸のうち4割が「こどもエコ住まい支援事業」の対象子育て世代(世帯主30歳代)の分と推定すると約10万戸となる。

大雑把な推計なのだが、1700億円という国の税金を、裕福層に偏ったわずか10万戸の新築住宅の為につぎ込む(勿論、リフォームに回った分もあるだろうが)というのは、税の公平という観点からしてどうなのだろうか?

この1700億円、より広範な子育て世代全体の為の施策にこそ使われるべきではないだろうか。

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