東京の区部の西のはずれには、南から北に、縦にきれいに連なって、井之頭池、善福寺池、富士見池、三宝寺池、と4つの池が並んでいます。井之頭池や三方寺池は有名で遠くから人も集まりますが、善福寺池や富士見池はちょっとマイナーで、地元の人以外は訪れる機会は少ないかもしれません。池の周辺はいずれも公園となっており、自然が豊かで近隣の人の憩いの場所となっています。
さてこれらの4つの池ですが、訪れたことのある人ならお気付きかもしれませんが、地形的な共通項があります。それはどの池も、池の西側が崖、或いは高台になっていることです。つまりは、いずれの池も、武蔵野台地の東のはずれに位置し、台地の下を流れてきた伏流水が台地の縁で湧き水となって湧きだしてできた池だということなのです。現在はどの池も湧き水は枯れてしまい、地下から井戸で水を汲んで池を潤していますが、昭和30年代頃までは、実際にまだ湧き水がわいていた記憶が筆者にもあります。こんな話をすると、まるでタモリの人気テレビ番組「ブラタモリ」が好んで取り上げそうなテーマになりますが、今回は住宅にとって重要な地盤に絡むお話です。
水は高いところから低いところに向かって流れるのは常識ですし、湧き水がある(あった)ような土地は、地盤が軟弱であるのも常識ですが、問題は宅地造成に伴う土地の形状の変化によって、本来の土地の形状が分からなくなってしまっていることです。
更にはここに盛り土や切り土等の土地の造成が加われば、ますます本来の土地の形状はわからなくなります。(筆者が丁度このメルマガを書いている数日前、熱海の伊豆山で集中豪雨による大規模な土石流が発生し、相当数の犠牲者が出ています。原因はどうも周辺の開発行為による盛り土の崩落のようです。箱根駒ケ岳の噴火物が堆積した地質のこのエリアに盛り土は基本的にあり得ないはずなのですがー)
それでも、上の4つの池の周辺をよく見れば、どの池の周辺も北側と南側は池に向かう坂となっており、池の東側は、井之頭池が神田川、善福寺池が善福寺川、富士見池と三方寺池が石神井川と、低地に沿って池の水の逃げ道が川となって東に流れ出しています。つまりは、全体としては武蔵野台地という比較的地盤の安定した地域であっても、池の周辺や特にその東側は、おそらく大昔は湿地や低地で、周囲から水が集まってきたエリアであり、地盤は相対的に軟弱であったろうと推測されます。
住宅の新築に際しては、現在は地盤調査が義務付けられており、調査の結果によっては地盤改良工事などで軟弱地盤であってもそれなりに対策ができますが、地盤改良工事は工事費もかさみ、また近年頻発している集中豪雨等による水災に対しては最近話題の高品質住宅(ZEHや長期優良住宅)とて全く無防備です。自然が豊かで憩いの場所が近くにあることは住宅環境にとっては素晴らしい事ではありますが、本来の地形を読むということも、マイホームの場所の選択に当たっては欠かせません。