年々、自然災害が深刻化するなかでも、先日の台風19号による被害は想像以上の大被害を各地にもたらしています。被害もこれから更に拡大する様相で、犠牲になられた皆様、被災された地域の皆様には心からお悔やみを申し上げます。さて、このような場合に決まって関心を持たれるテーマが、自然災害に強い住宅とはどのような住宅なのだろうか、ということです。そこで今回は、ハード面から見た自然災害に強い住宅について、災害の種類ごとにお話ししてみます。
<地震>
住宅の耐震性能については、専門的な部分は省略しますが、一般的に個々の住宅は「耐震等級」によって地震に対する強さがランク付けされています。
耐震等級1:建築基準法の耐震性能を満たすレベル(一般的な住宅レベル)
・数百年に1度程度の地震(震度6~7)に対しても倒壊や崩壊しないレベル
・数十年に1度程度の地震(震度5程度)に対して損傷しないレベル
耐震等級2:長期優良住宅認定基準を満たすレベル(学校・病院)
・等級1で想定される地震規模の1.25倍の地震が起きても倒壊しないレベル
耐震等級3:等級1で想定される地震規模の1.5倍の地震が起きても倒壊しないレベル(警察・消防)
正式な耐震等級のランクは住宅性能評価機関による検査によって決まりますが、2階建て以下の木造住宅の場合は、検査の方法によって2種類の「耐震等級3住宅」が認められています。その違いは該当住宅が「構造計算」という専門的な計算に基づいて建築されているかどうかなのですが、2階建て以下の木造住宅の場合は構造計算を用いない方法も認められているため、結果として構造計算以外の基準に基づく「耐震等級3住宅」と構造計算に基づく「耐震等級3住宅」、更にはややこしい話になりますが、構造計算以外の基準に基づく「耐震等級3相当住宅」と構造計算に基づく「耐震等級3相当住宅」、という4種類の耐震住宅が混在することになります。ここで「耐震等級3相当」とは、「正式な検査は受けていないが耐震等級3と同じレベルの耐震性能を有する」という意味です。正式な耐震等級のお墨付きを得るためには等級の申請費用や構造計算のための費用が掛かるため、費用を抑えるためにあえて「~相当」の形に留めている業者が多くあるのです。
それでは、構造計算における耐震性はどんなところをチェックするのか。言い換えれば住宅の耐震性はどんなところで決まるのでしょうか。
・壁(耐力壁)の総量と配置のバランス ・土台と柱や、柱と梁などの接合部の強さ
・基礎・床・柱・壁などの部材の種類・寸法・量・間隔 ・床面の強度 など
事実ここ10年ほどに日本で起こった大地震において倒壊した家屋の多くは、壁の量が少なかったり偏った配置になっていたりしたために家全体のバランスが崩れたり、土台から柱が引き抜かれたことで倒壊に至っていました。決して柱や梁が途中から折れて倒壊したりしたのではないのです。誤解を恐れずに言えば、現代の住宅においては「柱や梁が太いこと」と耐震性は思ったほどには関係していません。
<風害>
台風などの強風による住宅の損傷の多くは、屋根のめくれや外からの飛来物が住宅にぶつかることによって生じます。損傷を最小限にとどめるためには、コンクリート(RC)造などの方が望ましいことは言うまでもありませんが住宅へのダメージは強風だけではないため、風害防止のためだけに住宅をすべてRC造とするわけにはいきません。そのため木造住宅の多い日本では、今後の台風などの強大化を睨んで、複層強化ガラス窓の普及と反比例して取り付けないケースが増えている雨戸やシャッターの効用を見直すことも必要になるかもしれません。
一方、屋根ですが、15号台風では強風により千葉を中心に多くの家屋で屋根が飛ばされる被害が多発しました。昔の考え方は、屋根に重たい瓦をのせて飛ばされないようにする、ということでしたが、近年は地震の際も含めて、住宅は軽い方が自然災害に強い、という考え方が主流となっています。一般的なスレート屋根と瓦屋根を比較すると、耐久性の面では瓦に分がありますが、スレート屋根は基本的にスレートと屋根面が一体化していることで地震による滑落や台風などの強風によるめくれや飛散の心配が瓦に比べて少ないといえます。
<洪水・土砂崩れなどの水害>
洪水などの水害に強い住宅というものはハード面から見る限り基本的にはありません。水害をもたらす主な原因は地形です。海や川の隣接地、扇状地や盆地地形は潜在的に大雨による鉄砲水や高潮、洪水のリスクを抱えています。土地開発によって本来の地形の特徴が分かりにくくなっていますが、現在では各行政が地域のハザードマップを公開していますので、自分が住んでいる場所の潜在的リスクは比較的容易に確認できます。古くから地形的に水害の起きやすい地域は、例えば古い地名などから推測することも可能です。但し、予測のむずかしい近年の新しい都市型水害には目配りが必要です。
<特に注意すべきポイント>
1)地盤
熊本地震で倒壊した家屋の多くは活断層の真上に建っていました。また広島地方の水害や土砂崩れ被害では、所謂ハイスペック住宅である長期優良住宅がいとも簡単に足元の地盤を掬われていました。茨城県の常総市を襲った水害では、元々地盤が軟弱な地域であるために新築の際にコストをかけて地盤改良をしなければならなかった住宅だけが、逆に地中に深く打ち込んだ基礎補強杭のおかげで唯一家屋の流失から免れていたことは記憶に新しいところです。これらは如何に住宅にとって、地盤が大事かということを物語っています。近年住宅の新築においては、瑕疵担保保険の付加が必須となり、不随条件として建築に先立ってその土地の地盤調査の実施が義務付けられています。
住宅の新築に際しては、業者から、この地盤調査報告書を提示してもらうことをお勧めします。
2)何よりも大事な施工の精度
住宅の様々な性能レベルを示す「長期優良住宅」や「耐震等級」等は、あくまで数値上の基準を示すにすぎません。たとえ構造計算に基づく「耐震等級3」の住宅でも、肝心の施工がいい加減では本来の耐震性能は発揮できません。強度に影響する耐力壁や床面を固定する釘の打ち忘れや間引き、等が大手メーカーの施工現場でも散見されますが、住宅が完成してしまってからでは住宅内部の施工の状態を確認することはできません。断熱性能にしても、断熱材を隙間なく充填しているかどうかという、職人の施工精度が大きく影響します。施工にあたっては、信頼できる業者に依頼することが何にも増して肝要であるといえます。