開会中の通常国会で審議予定の今年度税制改正の主要項目の一つに、住宅ローン減税の控除幅の縮小があります。具体的には

2025年までの入居を条件に、年末の住宅ローン残高の0.7%相当額を所得税から(引ききれなかった場合は住民税からも)、13年間に渡って控除する。(但し、2024年入居からは借入限度額引き下げ、または減税期間10年に縮小)

というものです。

従来は、年末のローン残高の1%を向こう10年間に渡って控除する(2019年10月よりは、消費税が10%に引き上げられたことに伴う緩和措置として2021年度まで控除期間が13年間に延長されていました)、というものでした。

これが今回の改正で10年間1%の控除から13年間0.7%の控除へと変更される予定です。

果たして今回の改正は住宅ローンを借りる側にとって、どの程度の影響となるのでしょうか。これについては比較の前提となるポイントが3つあります。

1)減税対象者のローン借入限度額の上限額が住宅の性能によって細かく分かれたこと。

具体的には以下の4種類となります。(カッコ内は2024年以降の入居の場合の上限)

・認定長期優良住宅・認定低炭素住宅、等(認定住宅)・・5000万円(4500万円)

・ZEH、Near ZEH、等(ZEH水準省エネ住宅)・・4500万円(4000万円)

・断熱等級4、1次エネルギー消費量等級4、以上の一定の省エネ基準を満たした住宅

(住宅性能表示書等による省エネ基準適合住宅)・・4000万円(3500万円)

・その他の住宅・・3000万円(2024年入居分以降は減税期間10年)

2)減税対象者の所得制限が3000万円から2000万円へ引き下げられたこと

3)住民税からの控除上限額が年間13.65万円(前年度課税所得の7%)から9.75万円(5%)へ引き下げられたこと

但し、ここで注意すべきは、「借入金限度額」という表現です。これは正確には、「年末時点の住宅ローン残高の上限額」の意味で、ローン設定時の借入金額の上限の意味ではありません。その点を踏まえたうえで、実際に13年後においても年末時点のローン残高(ここで云うところの借入金限度額)が4000万円や5000万円も残っているためには当初の借入金額は相当高額である必要があります。

ちなみに、期間30年、金利0.5%(現在の変動金利の水準)とした場合、13年後の年末のローン残高が

5000万円であるための条件は、金融機関にもよりますが、概ね、当初の借入金が約8500万円、年間返済額305.2万円、借入時の年収872万円以上(返済負担率を上限の35%として)

4500万円であるための条件は、当初の借入金が約7800万円、年間返済額280.8万円、借入時の年収800万円以上(同上)

4000万円であるための条件は、当初の借入金が約7000万円、年間返済額252万円、借入時の年収720万円以上(同上)

3000万円であるための条件は、当初の借入金が約5300万円、年間返済額190.8万円、借入時の年収545万円以上(同上)

となります。

勿論、購入する住宅の価格は広さや仕様によって異なりますし、各家庭の個別事情や利用する金融機関によって返済期間や借入金利もすべて異なりますが、上記の数字を見れば、住宅ローン控除を住民税からの控除分も含めて上限までフルに享受できる層はかなり限られることがわかります。

では現実に即して、平均的な住宅ローンの借入の場合に、今回の控除額改正はどの程度影響が出るのでしょうか。

国交省の「令和2年度住宅市場動向調査報告書」によれば、注文住宅の平均購入額は3大都市圏で5359万円(土地+注文住宅)、その際の住宅ローンの平均は3704万円、また、分譲住宅の平均購入額は3大都市圏で3826万円、同2855万円となっています。ちなみに返済期間の平均は3大都市圏で注文住宅32年、分譲住宅31年、となっています。

そこで、金利0.5%(現状での変動金利ローンの金利)として、おそらく新築住宅の性能で最も一般的な省エネ基準適合住宅を購入し(この場合、借入金の上限が今回の改正では4000万円となります)、3704万円のローンを期間32年で組んだ場合と、2855万円のローンを期間31年で組んだ場合における今回の改正の影響を試算すると、以下のようになります。

<ローン金額3704万円、期間32年の場合>  *3大都市圏における注文住宅の平均

・13年間控除額0.7%の場合の総控除額約2,672,110円

・10年間控除額1%の場合の総控除額約3,103,000円     差額約430,890円

<ローン金額2855万円、期間31年の場合>  *3大都市圏における分譲住宅の平均

・13年間控除額0.7%の場合の総控除額約2,041,270円

・10年間控除額1%の場合の総控除額約2,376,100円     差額約334,830円

*一般的な住宅の場合の借入限度額3000万円が適用される場合は、ローン金額3704万円、期間32年のケースでは借入限度額の影響を受け、13年間控除額0.7%の場合の総控除額は約2,536,590円、となるため、10年間控除額1%の場合の総控除額 との差は566,410円となります。

今回の税制改正による住宅ローン控除額の縮小は、上記に見た通り、現実的には30~50万円程度の減少レベルになると見込まれますが、この減少幅をどうみるかは判断が分かれるところでしょう。

近年、新築住宅の性能レベルは向上しており、上記の国交省調査によれば、新築住宅における直近の長期優良住宅の認定割合は、注文住宅で約50%、分譲住宅で約45%となっており、その他の住宅でも、ほとんどの住宅の性能は住宅性能表示書等による省エネ基準適合住宅のレベルにあると思われます。但し、認定長期優良住宅の認定や、住宅性能表示書の取得には別途費用が掛かるため、特に地場の工務店においては、コストアップを避けるために、認定長期優良住宅や省エネ基準適合住宅と同等の性能をうたいながら、敢えて認定申請はしないケースが意外と多いのが実情です。今回の改正においても、認定長期優良住宅であるからと云って、今回改正された控除枠をフルに使える可能性は低い為、長期優良住宅等の認定申請を敢えてしない選択肢は、なお残るかもしれません。


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