東京都は先般、新築住宅への太陽光発電設備設置義務化とそのための支援策を発表しました。具体的には、新築住宅の建築に一定数以上の実績(年間合計延べ床面積2万㎡以上)を持つ大手住宅メーカーに対して、今後供給される新築住宅への太陽光パネルの設置を義務づけ、合わせて300億円に上る支援を行う、というものです。

確かに地球温暖化防止への取り組みは全地球規模での喫緊の課題であり、ましてや日本は、パリ協定を批准した結果、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年比46%削減する(*)という高い目標をクリアする必要があります。このような差し迫った状況に加え、昨今の世界的なエネルギー価格の高騰などの状況も踏まえれば、省エネと脱炭素や再生エネルギーの導入促進に向け積極的な対応を図ることに異存はありません。東京都も国以上の高い目標(『ゼロエミッション東京』、2050年までにカーボンハーフを達成する)を掲げて温室効果ガス削減に取り組んでいます。

*「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2021年閣議決定)

ただ、今回の東京都のあまりに性急な対応には、どうしても消せない疑問が筆者には残ります。なぜ東京都は、住宅の高コスト化や、太陽光パネルリサイクル体制の未整備、災害時への懸念、など、多くの反対意見を押し切ってまで太陽光発電設備の設置義務化にこだわるのか、という点です。

家庭は設備のコストをかけてでも将来的に本当に元が取れるのか。災害に強いと云っても、作った電気を効率的に利用するために必須の蓄電器だが、屋外設置の状態で洪水時に床上浸水にでもなった場合に機能するのか等々、巷で議論されている問題はここでは省略するとして、そもそも、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量はどうやって計算されるのでしょうか。

家計部門から出るCO2の排出量の割合は、日本の場合、総量10億4400万トンの約16%にのぼります(国立環境研究所データ2020年)。更に日本全体の総住宅数6241万戸と東京都の総住宅数767万戸(2018年)との比から単純計算すれば東京都の家計部門から排出されるCO2は約1億2800万トンと推計されます。しかしこの数字は、個々の家庭の実際の排出量を実測した数値ではありません。現実にはそのようなことは不可能です。ではどのような方法でCO2の排出量は計算されているのでしょうか。

実際には、「地球温暖化対策の推進に関する法律」の「温室効果ガス排出量算定報告公表制度」により、事業者に対してCO2の排出量の算定と報告が義務付けられており、そこで定められた計算式として以下が示されています。

(1) CO2排出量=活動量(生産量・使用量・焼却量など)× 排出係数

この計算式の意味は直接計器などを使って実際に排出されたCO2を測定するのではなく、ガソリン・電気・ガスなどの使用量といった経済統計などから得られる「活動量」の数値に「排出係数」をかけて求める、というものです。

ここで「排出係数」は、CO2やメタンなど温室効果ガスの種類によって個々の温室効果ガス発生活動ごとに係数が定められています(環境省サイトで一覧表示)。ただ特に日本の場合、CO2排出量計算における「排出係数」は、多くの場合「電力会社が電力を作り出す際に、どれだけのCO2を排出したかを指し示す数値」として使われています。そのため、実質的なCO2排出量は電力会社による以下の算式(3)から求められる結果となっています。

(2)排出係数=CO2排出量 ÷ 販売電力量

(1)と(2)の計算式を統合すると

(3) CO2排出量=活動量×(CO2排出量/販売電力量)

               ⇒ CO2排出量/活動量=CO2排出量/販売電力量

この式からわかる通り、電力会社ごとの活動量は販売電力量に等しい、ということになるため、各電力会社はCO2排出量の名目数値を抑えるために、本質的なCO2削減の努力より目先の活動量=販売電力量を抑えることに注力することになります。しかももう一つ重要な規定があります。

『自ら発電して使用した電気は「他人から供給された電気の使用に伴う二酸化炭素の排出量」の算定の対象にはならない。また、再生可能エネルギーを用いた発電事業による売電やクレジット化等の措置は、「温室効果ガス総排出量」の算定の対象には含まない。』

この規定を素直に読めば、家庭が自らの太陽光発電によってどれだけ電力を消費または売電しても、その分はCO2排出量の総量としてはカウントしなくてよいということになります。これを上の(3)の式に当てはめれば、電力量はゼロですのでCO2排出量もゼロ、という訳です。しかも、自宅の太陽光発電によって得られた電気を使うことによって通常の電力会社から供給される電力が節約できた分だけ、数値的にはCO2の排出量も削減できます。また、電力会社も、会社の売上自体は落とせませんので、再生可能エネルギー発電の利用や、再生可能エネルギー発電による電力の固定価格買取制度(FIT)に力を注ぐということになります。

つまり、現在の国の規定では、再生可能エネルギーの使用によって排出されたCO2は、それがどれほどの量であっても、CO2排出量総量にはカウントされず、再生可能エネルギーの利用によって減少した一般エネルギーの分だけ、数値上はCO2排出量も減少する、ということになるのです。もしこれが正しいとしたら、2030年に達成される削減数値はまやかしの数値だと云わなければなりません。これがCO2排出量計算にあるからくりです。

私達国民に求められていることは、単なる統計上の数値の削減ではなく、日々のCO2の排出を如何に減らすかという現実的な取り組みです。東京都の戸建て新築住宅着工数はコロナ禍の影響で増減はありますが、近年の平均は年間3万~4万戸。住宅メーカー上位50社のシェアが大雑把に6割としてそれらのすべてに太陽光パネルが載ったとしても精々年に2~3万戸程度。一方東京都の既存住宅数767万戸のうち、現行の断熱性能基準を満たす住宅は2割に満たない状況です。
しかも熱の放出と侵入の6割は窓を通じてと云われますが、既存住宅の多くは未だにアルミサッシと単層ガラス窓。社会全体としてのCO2削減を本気で考えるのならば、既存住宅の窓の複層ガラス化の方が効果は大です。つまり新築住宅への太陽光パネルの設置よりも優先すべきは、既存住宅の断熱性強化の方なのではないかということなのです。

都民の税金も、本来であればごくごく一部の人の為より、少しでもより困っている人の為、少しでもより多くの人の利益に処する為、に使われるべきです。上に指摘したことが、東京都が多くの批判にもかかわらず太陽光発電設備の設置義務化にひた走る隠れた理由でないことを祈ります。


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