昨年暮れの12月20日、日銀が市場に押し切られる形で、突然それまで抑え込んでいた長期の金利(10年物国債の金利)の上限を0.25%から0,5%に引き上げました。

元々日銀が堅持していた政策はYCC(イールドカーブコントロール)と呼ばれる、長期金利の指針となる10年物の国債金利と、短期金利の指針となる政策金利(コールレート)の金利を一定の水準以下に抑えるというものでした。今回の日銀による異次元緩和政策の実質的修正の影響は、早速住宅ローン金利における長期固定金利ローンの上昇として表れています。

問題は、今後の住宅ローン金利の動向です。大方の予想では、長期の固定ローン金利は上昇するが、変動金利は当面殆ど上がらない、という見方となっています。その理由は、今回の日銀による金利上昇の容認はあくまで10年物の国債金利の上昇容認であり、短期金利に影響する政策金利の金利操作の変更には手を付けておらず、また、近年の、市中金融機関による特に変動金利型住宅ローン市場での激しい顧客争奪戦を勘案すれば、変動金利に関しては当分の間上昇する可能性は低い、というものです。しかしこの見方には筆者は必ずしも同意できません。問題は現在起こりつつある変化の中身をどう捉えるか、です。

昨年暮れにかけて、日本経済は数十年ぶりと云われる各種指標の変化が立て続けに現出しました。1ドル=150円という円安は32年ぶり、消費者物価指数3.7%上昇は40年ぶりの数値です。日本はこの20年間、物価や金利の世界では、リーマンショックなどはあったもののほとんど変化というもののない、極端なインフレもなければ極端なデフレもなく、好景気でもなければ不景気で失業者が巷にあふれる訳でもない、見かけ上はフラットな社会が続いてきました。それは停滞の時代であったと同時に、日々の暮らしにとっては、一面極めて安定した時代であったとも云えます。

しかし変化の無さに慣れすぎてしまった結果、私達は社会が動かないことが物事の基準であるような錯覚にどっぷり浸かり過ぎていたのかも知れません。今回の動きが、その岩盤に変化をもたらすものかもしれないのであれば、私達が参考にすべきは、過去20年間の変化なしの時代のデータではなく、過去50年間の大きな変化のあった時代のデータなのではないか、ということになります。(今回の変化が、50年という長期的スパンで見た場合の本当の変化であるかどうかは、実際に物価が上がっている事実があり、それに伴い国民の間にも物価は上がるという暗黙の合意が形成されるかどうかだと、東大の渡辺努教授も近著で指摘しています)。

少なくとも金利は上がらないという常識が崩れ始めたのは事実であり、30年間続いてきた日本経済の構造が抜本的に変わる前兆である可能性は充分にあります。金利というものが殆ど無い時代における金融機関の貸し出しスタンスが、金利が普通につく時代においてもなお同じである、ということはあり得ず、近年の変動金利型住宅ローン市場における低金利競争も、実質マイナス金利を前提にして初めて可能であった事実を忘れてはならないと思います。

しかもこの国の財政は、ここ何十年間にもわたって悪化の一途であり、特にここ10年はアベノミクスを支えた金融政策によってその実態がカモフラージュされてきました。国の財政の悪化は、コロナ禍における大きな財政支出によってインフレへの耐性を更に弱めているはずです。勿論変動金利ローンと固定金利ローンがトータルとしてどちらが得かの評価は、その時その時の変動型と固定型との金利差や、将来のインフレ予想の水準などによって変わりますが、変動型の住宅ローンの金利も追って上がるだろうと考えることに無理はありません。

いずれにせよ、今年は視野をできるだけ広くとること、今回の変化の背景が過去のそれと同じではないとしても過去40年50年の動きの中でのいまこれからを考えるべき時期に来ているのではないかと思います。


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